道端に綺麗な花があったので手折って土産にしたら黙って受け取るばかりでにこりともしない。途中で新しい茶屋を見つけたから今度行こうと誘ったら、任務は?とそれだけ聞かれた。何をしても反応が薄い。黄色い花が若干萎れた風なのは花なりに空気を読んでいるのかもしれない。


「これは栞にします。では」


いやいや待ちなさいよ。
ぽんぽんと素っ気ない単語を並べて身を翻す彼女を慌てて捕まえる。戸惑うぐらい細い手首だった。冷ややかな視線で竦められるが今に始まったことではないので容易に受け流す。


「なに」
「に、任務!ちゃんと完遂したよ」
「ご苦労様でした」
「…僕さ、結構モテるんだぜ」
「だからなに」
「山ぶ鬼可愛くなったよなぁ」
「今更でしょ」


ガキくさい当てつけのような会話だ、わかってる。だけどここまで邪険に扱われる意味がわからない。つい「ひどい」と漏らしてしまった。彼女は首を傾げた。


「だって酷い話じゃないか。こんなに僕が頑張ってるのに、お前、気づかない振りばっかしてさ」
「酷い、とは」
「そのままの意味なんだけど」


足元の小石を軽く蹴飛ばす。転がっていったそれを追う彼女の眼は自分を見るときと一分足りとも違わない。ひょっとして石と同等の価値なんだろうか?それ以下だったらどうしよう。有り得そうで怖い。
しばらく沈黙が続き、拗ねた振りは振りだったのだが案外効果があったようで。


「お坊ちゃん育ちはこれだから困る」
「え?」
「鈍感野郎」


ほんのちょっと期待したら暴言で裏切られた。それに打ちひしがれるのも結構、でもよく考えてもみろ。殺伐たる雰囲気に現れる唯一の救い、それは僕は都合の良い深読みが得意なことだった。


「花、ありがとうね」


彼女は掴んだままだった手をするりと解いていよいよ去ろうとしていた。指を抜ける空気感に手汗をかくほど必死だったことに気付く。


「ねぇ、茶屋!」
「はいはい」


遠ざかる背中を名残惜しく後追いする視線、少しだけ聞き取れた呆れたような笑い声だけで耳まで熱くさせられるなんて本当に悔しいけど。

(でもそれが結構いやじゃない)