その廃人みたいな生活をやめろと兵助に言われた。携帯電話越しに。長年つるんでいる雷蔵ならともかく何故お前にそんなこと言われなきゃならんのかと憤慨したが、長年つるんでいるからこそわかる、恐らく俺の有様を見兼ねた雷蔵が相談した結末がこの忠告なのだ。あいつは俺に直接何か言う前に第三者を仲介してから話をまとめる癖がある。結局すぐ露見するから全然意味ないのにな。

しかし廃人とは言い過ぎじゃなかろうかと返したが、よくよく考えてみたら外出しないこと三ヶ月。移動範囲というのはトイレや風呂、台所ぐらいなもので、ジャンプの続きは気になれど徒歩2分のコンビニすら行くのが面倒くさい。部屋は常にパソコンの起動音が微かに存在主張をしているだけであとは丸めた紙やらカップ麺の残骸やら飲みかけのペットボトル(ずっと前から放置だったり、さっき飲んでいたものまで10種類ぐらい陳列している)要するにゴミが散らばっていた。もはや雑誌が布団になっているようなベッドに足でなんとかスペースを空けて座る。兵助の小言は母親と父親を合わせたようなもので正直しんどいし全然ありがたくない。くそA型人間、という印象が強まるばかりだ。だったら八からワン切り100連発くるほうがよっぽど面白いのだが、せっかくの厚意を俺がそんな風に無下にしていることを電話先の相手は知らない。


『…でさぁ、担任もうっせーし。そろそろ学校来いよ3分でもいいから』
「3分ありゃカップ麺出来ちまうぞ」
『だったらお湯入れてから来い。帰ったら食えるだろ』
「兵助って案外頭悪いよなぁ」
『てめっ』


唐突にピンポンと何かが鳴った。聴くのが久々過ぎて何かわからなかったが連打されている内に玄関の呼び鈴だと気付いた。やべ、なんか来たんだけど、まさか担任?慌てて部屋を飛び出ると兵助が耳元で笑っていた。担任じゃねーよ、最終兵器だ喜べ。
最終兵器たぁ物騒だな、とドアの覗き穴を見て俺は三歩退いた。


「げっ」


こいつは確かに最終兵器だ。電話口の笑い声はやがてぶつりと無責任に途切れた。後のことはドア越しにいる彼女に托したらしい。メールとか返してなかったな、そういえば…。
無理矢理作っている笑顔が見てとれて非常にいたたまれないのでおとなしくドアを開けた。換気もしてないから外の空気を吸うのは本当に久しぶりだ。廃人、その表現は的を得ている。さて何を言うべきか。


「…元気だった?」
「どの口がそれ言ってんの?メールぐらい返してよ、本当に死んだかと…」
「いやいや、まぁまぁ」
「部屋とか絶対汚いでしょ」
「よくご存知で」
「まったく」


許可もしていないのに学校帰りのローファーを脱いで上がり込んできた。勝手を知っている彼女はまっすぐ部屋へと突き進む。小言をぼやきながらもきっと掃除をしてくれるに違いない。俺が引きこもったのは今回が初めてではないので彼女は対処をよく知っているのだ。ゴミはもれなく処分され、本とか背表紙の高さまで計算された整頓術、ああこいつもA型だったかもなぁ。ありがたい。
そんな期待から1oも逸れずに派遣社員かと感心するほどの手際で清掃されていく俺の部屋。床とか対面するのが懐かしい。邪魔!とベッド上に追いやられた俺は一連の流れをただ見ているだけで、終わったよとの言葉を受けてから冷蔵庫の麦茶を取りに行く。礼にしてはささやか過ぎるが俺の出来うる最上級の感謝の形がこれなのだから仕方ない。戻った部屋はゴミも埃も綺麗さっぱり跡形もなく、(拭いたのか知らないが)パソコンの画面でさえ幾らか明るい。


「理由を聞きましょうか」


ぐいぐいと麦茶を一気飲みしてから俺に問う。彼女が指しているのは俺がこんな有様になるまで引きこもっていた原因なのだろうが、理由なんざなかろうよ、だって廃人ですよ。目的があって引きこもるならもっとマシな名称が与えられる筈だ、多分。

でもそれらしいことを言わないと殴られそうなのでとりあえず考えあぐねていると再び携帯が鳴った。






全然話進まないので切りましたすいません。
マンションに一人暮らしとかそんな感じです。