春は、もうじきやってきます。季節は変わらず、愛も変わらず。私は、春の空気が嫌いになりそうです。



「ずっととか言っちゃう人は嫌いだなあ」

ブランコを思いきり漕いだ。びゅん、とまだ冷たい風を切りながら、小さく呟く。錆び付いた鎖を握りしめて、夜空を仰ぐ。同時に隣にいる泉の姿も揺れる。あの言葉が聞こえてようが、聞こえていまいが、今の私には関係ない。もちろん、泉にも。たとえ、届いてほしい言葉だったとしても。


「あいつまだ飲み終わらないのかよ」


つま先をずずっと引きずって、景色を止めた。右側に目を向ける。泉は携帯を見つめたまま、ため息を漏らしていた。

「寂しいの?」
「いや、待ってるの面倒くせ」
「彼女なのに?」
「普通に待つの嫌いなだけ」


私は待たせたりしない。泉に嫌われたくないから、友達のふりして隣に居座るし、約束は守る。面倒がかからない女でいるつもり。でも、嫌われないからといって好かれるわけもなく。どんどん積もる想いに、今にも負けてしまいたくなる。本当の私でも、こうやって隣にいることって出来るんだろうか。確かめる勇気がない。いつも、自問自答。


「でも帰らないんだ」「そのうち来るだろうし、待つよ」


煙草の白いけむりが、ゆらりと揺れた。彼女が来ることになれば、私は必要ないんだろうな。鼻をかすめる泉の煙草の匂いにたまらなくなって、ポケットからライターを取り出す。


「あれ?吸うんだ?」
「たまにね」
「意外だな」
「なんで?似合わない?」
「違和感ある」


私は小さく「そう?」なんて笑って、目を伏せる。男女の間に芽生える友情ってなんだろう、とふと考えた。わたしたちなんて、お友達ごっこなんだよ。繋いでるのは信頼とかじゃなくて、私が泉を離したくないっていう欲。


「泉はさ、私のこと友達だと思う?」
「何だよ、今さら」
「ううん、何でもない」


この人は何も知らないんだ。いちいち彼女の話を聞いて落ち込む私も、夜中の着信に喜ぶ私も、今その言葉が嬉しくて悲しい私、も。


「褒めてやるか?」

いたずらそうな笑みを浮かべて、泉が手を伸ばす。私はもう一度煙を吐き出して、泉の胸元あたりに目を落とした。嫌いになれたら。きっと、こんなに胸を苦しめることはないのに。彼女をずっと大切にしたい、って話す泉を、そう想われる彼女を、単純に羨ましいと思った。私には、きっと、味わえない。


「お前が一番信頼できる女友達だよ」
「ありがと」


くしゃっと髪を撫で回されて、もう一度泉は笑った。すらすら嘘をついて、私は今日も泉の隣にいるの。奪いたいんだか、失いたくないんだか、もう分からない。ずっと一緒にいたいって願う自分が、一番苛立たしい。


春の夜は、とても寒かった。

(20120321)
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