もしかしなくても、わかっていた。だって、私ずっと好きだったんだもの。



「あれ?なんか水谷髪型違う?」
「ん、ちょっとイメチェン」


水谷が髪型を変えた、日。なんとなく胸騒ぎがした。こんなに空は晴れているというのに、心臓が泣き出しそうに形を歪めている。こんなに話したくない、と思ったことはなかった。いつ、あれ、が水谷の口から出てきてしまうのか。そればっかりが気になって、何も話せずにいた。どの言葉を選んでも、きっと、繋がってしまう。水谷に彼女が出来たなんて、聞きたくもない。


「どう?かっこよくなったでしょ」
「少しは、ね」
「なあんか冷たいな、お前」


昨日までの私なら、うわあかっこいい、なんて言いながら、髪をくしゃくしゃにしてあげたのに。元気出ない。彼女が出来たから触れちゃいけないの?そんなわけないのはわかってるけど、やっぱり嫌だ。私よりたくさん水谷に触れて、その子だって水谷に触れられて。考えるだけで泣けてくる。今までの私、なんだったんだろう。


「そんなことないよ」


ううん、そんなことある。ずっと水谷への気持ちって、今日の空みたいに晴れ晴れとしてきれいで、居心地のいい感情だって信じ込んでいた。一緒にいて、別になにするわけじゃなくても、それが幸せで。私の好きって、全然欲がないんだなあって、勘違いしてた。


本当は、こんなにどろどろしたものがへばりついてた。どうして私じゃないんだろう、あの子なんだろう。昨日水谷とその子見かけるまで、知らなかったきもち。なんで、どうして、が際限なく沸き起こって、水谷を、自分を責め立てようとする。このどろどろは、どうしたら解放できるんだろう。今日の空に似合わない、この塊。



「昨日さ、」

ぎゅっと、反射的に目をつぶる。それはもう構えの姿勢だった。

「駅前にいたよな?」
「うん、買い物頼まれてて…」
「実はね、俺もいたんだ」


知らなかった。水谷が、私を見つけていたこと。そして、私が見つけていたこと、気づいてなかった。その場で目が合わなくて良かった。きっと、どうすることも出来なくて、ただ呼吸を乱してしまうだけ、だった。水谷が大事に握っていた、小さな左手なんか。見たくなかったんだよ。


「私も見た。彼女といた?」
「あれ?知ってた?恥ずかしいなあ」
「…かわいい子だね」


私の言葉に、大きく頷く。それだけで十分だった。でも、水谷は何もわかってない。風に舞い上がった私の髪の毛を撫で付けて、にっこり笑う。違う、違う、もうやめて。


「でも、お前もかわいいよ」


あの子と同じ、かわいい、じゃないのは知ってる。でも、せっかく諦めようと、諦め方を見つけようと思っていたのが、台無し。つまり、私はこの叶わない恋に、また頭を悩ませることになる。

だから、決めたのだ。


「水谷、私あんたのこと好き」


靴は思っていたより軽く、胸の奥に住み着いた塊は、たぶん水谷にあげてきたみたいだ。息がしやすい。


間違っていた。あの子と戦うんじゃなくて、私の敵は、くるくるパーマのかっこいい男の子、だ。ちゃんと見ててね。私きっといい女になってみせる。


(20120201)
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