すぐ泣く。いつだったか当時付き合っていた彼氏が、私にそう言った。確かに弱かった。傷つきやすくて、いつも自分が一番かわいそうだと思っていたし、自分が一番かわいかった。そのくせに、自分のことは大嫌いで、よく息をしてたなってくらい、何から何までがんじがらめだった。


あれから泣くことはなくなった。強いことと泣かないことは、同じだと思ってた。


「違うと思うけどなあ」


初めてだった。こうやって誰かに、否定されたこと。今日は、こうして委員会がたまたま長引いて、教室で作業して、他に誰もいなかったから、本当にたまたまふたりになったけど。話したいわけじゃなかった。今思い返すと、私がこの話題にたどり着いた道順が分からない。隠すことではなくても、伝えることに意味はなかった。きっと栄口くんは、私と付き合ってた彼のことも知らない。その事実も。ただ、栄口くんは、上手に相づちを打つから、つい調子に乗って余計なことまで話してしまっただけ。


「辛くないの?」


心の中を覗き込まれてるみたい。夕陽に照らされた目が、ゆるやかに光って、私の中までその光が届いてしまいそう。ああ、せっかく隠してきたのに。誤魔化していたのに。悲しくて辛いこと。知らないふりしてやり過ごしていたのに。照らさないでと願うのに、こんなときに限って栄口くんは視線を反らしてくれない。



「……辛くないよ」
「けど、そんな風には見えないなあ」
「え?」

何も知らないくせにって思う反面、

「泣きそうな顔してる」

私のことを少しでも知ってほしいと願う自分がいた。


「大丈夫だ、よ」
「いいんじゃない?もう頑張らなくて。泣くとすっきりするよ」



栄口くんは、そう言うとふわっと柔らかく笑ってみせた。何がさせるのか分からないけど、我慢していたものが、ぷつりと切れた。溜まっていないと思っていた涙も、ゆっくり流れだし、頬を伝った。いろんなことがあった。頬の内側を強く噛み締めても、まだ止まらない。


私は、泣きたかったのだ。誰かに気づいて欲しかったのかもしれない。強くなんかないって、言って欲しかった。



「…もう少し泣いてもいい?」
「俺で良ければ付き合うよ」


ポケットや鞄からあるだけのティッシュを机に並べた。異様な光景にふたりで笑って、わたしは泣いた。もう陽は沈みかけている。ありがとうの言葉をゆっくり吐き出すと、少しだけ身体が軽くなった気がした。





(20110727)
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