「お前何してんの?」
「見たら分かるでしょ、昼寝」

昼休みに田島とキャッチボールして、部室寄ろうとしたら、なぜかこいつが寝てた。体育館の脇の石段で。暑くないのか分かんないけど、とりあえず日陰にはなってるようだ。


「泉も寝る?」

わあ私ってば大胆、とか1人盛り上がってるけど、今日のこいつは何かおかしい。朝から制服に葉っぱくっついてたし、授業中もやたら眠そうだったし。休み時間は、チョコばっか食ってた。女って、時々わかんねえ。いや、結構な割合でわからない。

「もうすぐ休み時間終わるぞ」
「うーん、でも今日暑いからなあ」
「どう考えたって、ここの方暑いだろ」
「風当たるから」


彼女の言葉に従うかのように、風がひらり舞った。シャンプーかなんかのCMみたいだった。額にかかっていた彼女の髪が、さらりと揺れる。涼しげな顔をして、瞼を閉じるその仕草を俺はじっと見ていた。入道雲、昼下がり、まとわりつくような汗と制汗スプレーの匂い、蝉。一瞬こういう昼休みも悪くないと思った。いつか俺がもっと年を取って、毎日スーツ着て満員電車に乗るようになったら、良かったなって振りかえるのだろうか。こんななんでもない昼下がりも、夏の思い出として残っていくんだろうか。


「泉は、今日ずっと私のこと見てるね」
「はあ?」
「いや、最近ずっと」
「何言って…」
「知ってるんだからね」



立てていた右膝をすっと伸ばして、彼女はちらり見た。流した視線の先には俺しかいない。彼女をいつも盗み見見るより、まっすぐに、太陽みたいに焦がしてくる。ただ言葉がぐるぐる渦を巻いている。


「もしかして私のこと好き?」

渦なんか、どうだっていいや。彼女の唇をふさいだら、あまりの熱さに溶けてしまいそうだった。重ねた指がひやりとしているのに。やっぱり、夏だ。



とっくに気づいていた。俺はもう彼女の夏から抜け出せない。




(20110724)
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