走った。久しぶりにわき目も振らず、ただ、走っていた。雨の匂いをアスファルトから照り返してる太陽が思い出させる。


「待って」


多分、彼の耳には届いていたはずだが、返事も振り返る様子もない。もう一度爪先を蹴りあげて、榛名の隣まで走った。息が切れそう。でも、この苦しさの理由はちゃんと他にあった。


「何」
「やっぱり聞こえてたんじゃん」
「俺はお前に用事ない」
「私はある」


シャツをぐいっと引っ張って、ようやく足が止まる。さっきから、榛名の眉間には皺が寄せられたまま。全然かっこよくなんてないし、ばかみたい。そのばかを好きなのは、間違いなく私。


「あんた勝手に誤解とかやめてくれない?」
「秋丸のこと好きなのは事実だろ」
「違います」
「べったりくっついて楽しそうにしてたくせに」


手のひらに無理矢理握らせた薄い緑色の包み紙。一応リボンもつけてもらったけど、あまりに榛名と今の私たちには似合わなさすぎて、寂しそうに見えた。でも、しょうがない。無理もない。それが、今までの私たちなのだから。


「誕生日って聞いたから」


榛名に何かあげたい、と私が秋丸に耳打ちをしたとき、大きな声で笑われたのだ。ねえ、何がおかしいの?と問いただす私に彼は、耳打ちで私に返事をくれた。



「タオル。部活で使うでしょ」
「おう…サンキュー」
「うん」

秋丸の言葉が頭をぐるぐると回った。もしかしたら、ふざけていたのかもしれない。でも、私が本当に届けたかったのは、タオルより、もっと大切なことだったんだ。


「遅れちゃったけど、誕生日おめでとう」


じわ、じわ。心臓にゆるやかな負担がかけられていく。榛名を目の前にすると、いつも素直になれない自分が嫌いだった。大好きなのに、汚い言葉遣いでやり返したり。叩いたり、つねったり。本当は、いつも優しく触れたかった。拒否されることも怖かったんだと思うし、何より私たちがそんな間柄になるのは、宇宙から見ても奇妙なことであるのは間違いない。と、私が思い込んでいたから。


「おめでとう」

もう一回言った。榛名は口を尖らせて、私の頭に手のひらを近づけてきた。怒っているようにも、照れているようにも見えた。こんな姿は、まだ見たことがない。昨日までと違ったのは、その手のひらが、うんと優しかったこと。あたたかい、と初めて感じられたことだ。


「照れるからやめろ」
「私だって恥ずかしいんです」
「…お前誕生日いつだっけ?」
「秘密。秋丸に聞いて」
「んだよ!教えろよ」


榛名も同じように言われるんだろうな。お前にお祝いされたかったって拗ねてるよ、って。





(20100527)
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