ゆらゆら。睫毛が揺れた。面白いくらいに、ゆらゆら、と。
南向きの図書室に降り注ぐ太陽と、古びた本の匂い。学校のなかで一番落ち着く場所。
「おーい、起きてるかー?」
はっ、と気がつくたびに勇人が心配そうに私を除きこむ。私は、大丈夫だと笑う。教科書を開く。そして、気がつくとまたさっきの言葉。
「眠いなら帰ろうか?」
「でも、せっかく古典教えてくれるって言ってたのに」
「んー。でも集中できる?」
無理すんなよ、と言いながらも、また教科書に目を戻してまつ毛を伏せる。勇人の髪って、猫っ毛だもんなあ。太陽を浴びて、よりいっそう綺麗にひかる。透き通ってるみたい。いい色。
数えきれないほどの呼吸を重ねて、それでもまだまだ足りなくて。わたしったら、勇人のことこんなに好きなんだと毎日思いしって。でも、それが一番の幸せなんだと最近気づいた。想うほうが、幸せな気がする。
「4月からクラス一緒になれるかな」
「どうだろうなあ。別でもまたお弁当一緒に食べたりしよ」
「別々でも寂しくないの?」
「寂しいよ」
「…そう?」
「でも一緒だと、焼きもちやいちゃいそうだしな」
「私やかないもん」
「違うよ。俺が」
柔らかく笑う勇人が困ったように眉をさげる。こういう姿を見るなら、やっぱり独り占めしてたほうがもっと嬉しく感じれるなあ。なんて、私は今日も都合よく思うのです。
20100217