「よっ」
「どうも」


今日は、なかなかついてる日かもしれない。高瀬に会った。会いたいと思っていたら、ほんとうに会えた。


コンビニの帰り道は、寒くて、でも月が綺麗で。ふと思い浮かんだのは、高瀬の顔だった。指先に力がはいっていく。ばかみたいに緊張した私、と、少しだけ顔が赤い高瀬(たぶん酔ってるんだと思う)。風は涼しいというのに、さらりと笑う高瀬に頬の熱はまったく冷める気配がない。私まで飲んでるみたいだし。困ったな。



「夜食買ったの?」
「あーそんな感じ」
「へえ」
「うん」


なんか続かない。会話が続かない。コンビニの袋を意味もなく覗き込んでみたり、空を見上げてみたりしても、私の心が映すのは高瀬の横顔。恋というものは、ひどく人を臆病にするらしい。一緒にいるのに、心臓の音が邪魔をして楽しめない。嬉しいのに、可愛いことも言えない。

今日偶然後輩の利央くんに会
ったとか、そんな話をしながら、まだ彼は着いてくる。かつんかつん、と靴を鳴らしながら。私はその響く音を、拾い上げて、また音が響く。その繰り返し。今さらこんなにどきどきして黙りこくるなんて、どうしちゃったんだろう、本当に。


高瀬は、何を思っているかな。隣に並んで、手と手が触れあいそうな距離。わたしたちの指は、決して触れたりはしない。それは、友達だから。今までもずっと変わらず私たちは、そうやって過ごしてきたのだ。でも、それとも私が何してようが、別に興味ないのかな。そうだったら、ちょっと悲しい。


電信柱をみっつ追い抜いたところで、私たちは同時に顔を見合わせた。あ、心臓がぎゅうぎゅう鳴ってる。行き交う車のライトが忙しい。高瀬から露骨に目を背けてしまう。私ったら意識しすぎでしょ。


「…高瀬はこっちに用事?」
「あ、ああ」


あいつんちで飲んでたんだよ、と共通の友人の名前をあげる。確かに家は、この辺だったような気がする。買い出しを頼まれたのか、私と同じようなビニール袋を掲げてみせる。酔うと少しお人好しになる高瀬が
可愛くて、ちょっと笑った。普段なら、絶対そういうのしないから余計可愛い。



「今日さあ」


夜は静かだ。私の頭の中を、その声が支配する。少しずつ、こっちに高瀬が歩み寄ってくる。逃げたいような、近づきたいような不思議な感覚に襲われる。


「あ、やっぱ何でもない」
「なに?気になるんですけど」
「んーいいから忘れて」
「う、うん…」


ときどき、高瀬の手をつかみたくなる。その衝動を抑えようと、私は深く息を吸い込んだ。しばらく訪れた静寂を破ったのは、私、ではなかった。


「なんかわかんないけど、会いたかったんだ。お前に」
「え?」
「さっき言いたかったこと。やっぱり言いたくなった」
「…高瀬酔ってるね」
「ちょっとだけな」

「月綺麗だね」
「俺も思ってた」


こっそり私たちの指先が繋がって、高瀬の温度を痛いくらい感じた。愛してるとは言えないけど、今日の月は綺麗だね。





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