「何やってんの」


突然上から降ってきた声に、慌てて携帯を折りたたむ。あくまで自然に。そう言い聞かせれば聞かせるほど、喉がへばりついてうまく話せない。隣にしゃがみこんだ阿部の髪が、きらりと光る。私と同じ香りがする滴が、ぽたりと首筋に落ちて、伝う。何もしていないのに問い詰められている気分だ。顔の真横にある、手。阿部に閉じ込められてしまえば、私はもう逃げることができない。横目で見れば、枕の上の携帯がちかちか光っている。待ち遠しいはずの返事が、阿部の存在で、望まないものへ変わる。


「メール来てんじゃね?」
「…多分」
「返事したら?俺も携帯いじってるし気にしなくていいから」
「うん、分かった」



つまらないことで比べてしまう。田島だったらああ言うだろうとか。きっと阿部は妬かない。メールくらいで詮索したりなんかしない。私にとって、それは心地よいものであったけれど、その分寂しくもあった。操りきれない思考を持て余しながら、私の横に転がった阿部と背中合わせになる。かちかちとボタンを押す音と強く窓を叩く雨の音だけが私の鼓膜を揺らした。


『やっぱり会うのはやめとく』


田島からのメールは、予想とは違ったものだった。なんだかんだ、少し自惚れてしまった自分を恥じた。でも、一度願ってしまったら、きっともうだめなことは、わかっている。だから、苦しかった。この後に及んで阿部が揺れている気持ちをもぎ取ってほしい、とか。いっそ嫌いになってくれたらいいのに、なんて、いつまでも他力本願な自分では、何も見つけられないのだと思った。だから、私は阿部に告げたのだ。



「少し阿部と距離を置きたいんだけど」



20101211
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