私は、別にわがままを言っているつもりはなかった。ただ、いつも隣に利央がいて、おっきい手に触れたり、頬をつねってみたり、匂いをかいだりできれば、それで充分。わたしだけに優しく笑ってくれたら、嬉しい。でも、世の人々はそれをわがままと言うのだという。
「俺ちゃんといるよ」
「うん、わかってる」
「でも、不安なんでしょ?」
不安、だ。それはものすごく不安。頷けば、嫌でも利央の悲しげな瞳が浮かんでくる。だから私はまっすぐ前を見つめるのだ。悲しくさせたいんじゃない。でも、どうしてかな。いつも泣いてばかり。
私が望むものを利央はすべて持っていて、分け与えくれる。だから不安なの。利央がそこにいて、触れる距離にいるから。理由なんて、それしかない。だって、利央がいなかったら不安にはならないでしょう。
理由のようで理由にならない言葉を利央はじっと聞いてくれた。そして、「あ」と「ん」の間みたいな声を出した。ごめんね、まだうまく伝えられないよ。私たちの間を流れる匂いは、水の匂い。冬の川辺ってこんなに寒かったかな。隣にある手を無意識につかんでしまう。やっぱり、私たちは違う人間だから。理解しあうのは、不可能に近い。私たちの温度はこんなにもにているのに。
「でも利央のことはすごく好きだよ」
「うん。俺もお前のこと好き」
「どっちがたくさん好きだと思う?」
「俺だよ、絶対」
「ふふ、どうかなあ」
「絶対そうだもん」
利央はときどき悲しくなる?好きすぎて、つらくなったりする?私はいつもつらいよ。そのきらきらのまあるい瞳には、どうして私以外のものが映ってしまうんだろうって思うと、胸がしょんぼりする。他の女の子と話すのはいいけど、瞳の中には連れ込まないでほしいのに。
「『ずっと』なんて言わないでね」
「え、なんで?」
「人間に永遠なんかないじゃない」
「本当にそう思ってる?」
永遠だとか胸を張って言えるのは、宇宙を隈無く探しても見つかるのだろうか。たいていの人は、永遠だなんて大それたものを持ち合わせていないのだから。みんな嘘つきなんだ。もしいるなら、神さまくらいじゃないかと思う。まあ、その存在すら、信じきれないものがあるけど。
「俺、永遠ってあると思うよ」
目の前にいる男の子は、すごくバカだ。何のためらいもないまっすぐな利央の視線は、空想理論で塗り固めたわたしのこころを、突き刺していく。壊れていくことは怖いのに、その音は柔らかくて安心してしまうような、心地よいものだった。
「なんで?」
「お前のこと好きだから」
指を強く握り返した。
ほら、わたしたちはもう永遠のど真ん中。
20101230