「こーすけー。寒いから窓閉めて」
「はいはい」


銀色の枠のガラスが動く。たった1枚のそれは、教室と外を区切る。あんな薄っぺらいくせに、この部屋は太陽の光をめいっぱい吸い込んであたたかい。邪魔する風も、今はない。


机にへばりついたままの私の頭をぐしゃぐしゃ撫で回して、孝介が隣の席に座る。三橋くんの席なんだけど。まあ、いいか。机の跳ね返すような硬さより、だれかさんのからだの方があたたかくてよっぽど心地よいのに、指先だけが伝えてくる熱でもう今は十分。


「最近寒すぎて動くのつらい」
「だったらそんな薄着してくんなよ」
「うーん。そうなんだよねえ」
「とりあえず俺のやつ着とけ」「ん、ありがとう」


羽織っていたパーカーを私の上に被せてくれる。袖を通せば、止まることなくするりと指先が顔を出す。でも、ぶかぶか。背が伸びて、すっかり男の人になってしまった孝介。あんなに小さいころからずっと見てきた背中が、ほんの少しだけ遠くに感じる瞬間。いつからか見上げるようになった孝介は、誰よりも眩しかった。野球をしていても、そうじゃなくても、私の心を隙間なく埋め尽くしているのは、この人たった1人。夏の太陽のせいなんかじゃない。それは、自分が一番よく分かっている。


頬杖をついて、窓の外に目を向ければ、昨日まであったグラウンドの木々の葉は、散ってしまっていた。黄色や赤が土の上かをで、まばらに色づける。秋も、もう終わる。卒業までに学校に来るのは、あと何回だろう。来月終業式をしてしまえば、1月からは数えるほどしか授業はない。それぞれの進路で講習はあるにしても、専門学校のわたしと大学の孝介では、こうして教室でだらだら過ごすことも、きっとなくなってしまう。寂しくなって、孝介の指先をつかんだ。私の指先は、冷たい。



「私さあ」
「うん」
「永遠なんか要らない」
「…はあ?」
「明日孝介がいてくれれば、それでいい」
「当たり前だろ」



おおきな指が、私の指に絡む。あったかいけれど、やっぱりずっと感じていたものとは、また違う。マメも少なくなった。傷もなくなった。夏と隣り合わせの秋なのに、こんなにも違うものなのか。孝介が追いかけるのは、今度は違う夢。白い小さなボールは、今年の夏に置いてきた。もう野球はおしまい。心臓が痛むのは、言葉に対する嬉しさからか、野球をしない寂しさからかも分からない。ただ、目の前の彼がどうしようもなく愛しかった。




「分かってるくせに、わざわざ言わせんなよ」
「…うん」
「ンな顔されたって、キスしてやんねえからな」
「学校だもん…我慢する」



そのくせに、簡単に唇を奪ってしまう孝介は、永遠を持っているような気がするよ。このまま世界の呼吸が止まってしまいそうな、しずかな時間。むせかえる程の夏の匂いは、私たちに夢を見せてはくれない。でも、もう不思議と寂しくはなかった。






Happy birthday Izumi:)

20101120
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