チェックのマフラーに顔をうずめた。白くわきあがる息をすうっと吸い込んでしまって、今は暗い夜が広がるだけ。隣を歩く利央が押す自転車のライトが頼り。この辺りの道には、街灯が少なくて、部活帰りには少し心細くもあった。利央を偉そうに連れまわして歩いても、うるさい心臓だけは抑えられずに、まだ腕を引いたあの感触が指に響いている。


ひとりごとのように「寒い」と呟けば、隣を歩く利央が笑う。「お腹空いた」と言えば、俺もとそれはそれは切ない声をこぼす。それだけで幸せだと思えるのに、私はうまく笑えない。嬉しい気持ちをいつから利央に伝えられなくなったんだろう。11月は苦手だ。秋なんだか冬なんだか分からないし。何より、利央の誕生日があるし。私が機嫌を損ねているのは、それが一番の原因なのだ。



「プレゼント超嬉しかったなー」


自転車のカゴには大きい紙袋。朝からひっきりなしにやってくる女の子を、私もしっかり目撃していた。話すたび、へらへら笑うのが気に食わなくて、机に伏せて寝たふりをした。それでも、利央の声だけがはっきりと耳に入り込んできて、その度唇をぎゅっと強く結んだ。


「良かったね」
「うわ、棒読み」
「よかったですねー」
「何も変わってないってば!」
「…てか、利央今日誕生日じゃないじゃん」
「んー。でも嬉しいもんは嬉しいじゃん」


ずきずきする。心臓の奥が握りつぶされたように、痛む。じゃあ、私からのプレゼントも、いつ渡そうが関係なかったんだろうな。張り切って置いてきた私がバカみたい。むしろ、期待なんかされてないだろうし、その可愛いラッピングのプレゼントに紛れ込ませた方が良かったような気がするなあ。

ぼんやり視線を利央に向ければ、とめどなく気持ちばかりが溢れて、いつの間にか手のひらにはうっすら汗をかいていた。鼻をすすれば、もうすっかり冬の匂い。今さらだけど、わざわざ日曜日に渡しに行く勇気がなくなってきた。指先をぎゅっと握りしめて、うつむかないように、悲しい顔をしないように、ぐっとこらえる。あと5分。そこまで頑張れば、分かれ道だ。



「でもなあ」
「ん?」
「お前プレゼントくれると思ってたし」
「え…」
「だって、俺あんなにお願いしたのにさあ」
「…あるよ。あるけど」
「マジで」


さっきまですねるように石ころを蹴飛ばしていた利央が笑う。つられて笑いたくなった。その笑顔だけでも嬉しくて、胸がぎゅうぎゅう、いっぱいになる。想像以上のテンションではしゃぐ彼のおかげで、今日くらいは素直になれそうな気がしてきた。あの子たちみたいにおしゃれしてないけど。いい匂いの香水も、ぴかぴかのネイルもしてないけど。



「でも、今日は持ってきてない」
「えーなんでー」
「誕生日いちばんに祝いたいなあって思ったから……なんて。あははは…」


最後の最後で、やっぱりいつもの私になってしまった。でも、言った。私、今年はちゃんと言えた。口の中の奥の方が、じわじわする。奥歯を噛みしめてみたって、それは収まってはくれない。逆に、沈黙が続くほど色んなところが熱を奪っていく。心臓も、指先も、頬も。早く続きが欲しくて、ちらりと利央を見上げる。きゅっと自転車が動きを止めたので私も足を止める。どうしたら、いい?私ばっかりどきどきして、ずるいよ。唇を手のひらで覆われてしまって、言おうと思った言葉を飲み込んでしまった。土の匂い。私の大好きな、あったかい匂いがする。



「なんなの!お前!」
「意味わかんない!何のこと?」
「だめ」
「はあ?ちょっ、利央ったら!」
「日曜日話すから今はいいの」




日曜日になったら私もちゃんと言えるかなあ。ねえ、利央。私たちの言いたいことって、もしかして一緒だったりしますか?




20101105

グッバイブルーバードさま提出
Happy birthday 利央!
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