「あいつら変わんねぇな」


少し離れた場所にいるクラスメート達を見る、その横顔がやけにかっこよくて、胸が苦しくなる。昔から、大人びたところはあったけれど、また更に落ち着いた気がする。変わらない私の腕時計、変わってしまった泉の薬指。何もないのが彼女がいないのとは、必ず結びつくわけじゃないと、何度も唱える。もしかしたら、なんて期待しそうになる。私は好きじゃない、なんて頭の中で繰り返したって、ただの気休めでしかないのはもちろん分かってる。もう、どうしようもない。時間を越えて、気持ちは簡単に元に戻ってしまったのだから。


私たちの間を吹き抜ける風は、もう冷たい。少し茶色くなった泉の髪をさらさら揺らして、暗闇を走っていく。海辺に漂う夏の香り。高校生とは違う夏の中で、また私は泉を見つけてしまう。クラス会なんて、残酷なだけだ。こうなること分かっていたのに、私は馬鹿以外の何ものでもない。線香花火の光がぽとり、と落ちる。ただの紐になったそれを近くのバケツに放り投げてしまったら、泉の花火だけが私たちを照らす。


「8月ももう終わりかあ」
「あーそうだっけ。夏休み長いと分かんなくなるよな」
「確かにね」


ほんの少し前、確かに私たちは一緒に毎日を過ごしていて、すっかり日焼けした肌に触れながら、たくさん笑いあった。お互いがいなきゃ息さえ出来ないみたいに、必死で求めあっていたあの頃は、遠い昔のようだ。もう日焼けのあとはすっかり消えてなくなってしまったのに。どうして、それと同じように泉への思いは、消えてくれないんだろう。



「おい、何浸ってんだよ」
「え、いやあ、ちょっと考え事してて」
「へえーお前も考えることあるんだ」
「なによ!相変わらず失礼ー」
「で、何考えてたわけ?」


促すような視線に、私は目を反らした。しゅっと音を立てて、花火が消えてしまう。真っ暗な中で、深く深く呼吸をした。煙は苦しくらい夏を感じさせる。私たちが終わってしまった、あの夏の日を。


「うーん。泉には言えない色々かな」
「んじゃ聞かねー」

それっきり泉も私も黙り込んでしまう。少し離れたところで騒いでいる田島たちの声にだけ、意識を集中させて、何とか泣くのを堪えようとした。


笑って話せたらどんなに良いだろう。昔の話も、今の話も、これからの話も。なんでこんなに苦しいの。自分で自分の首を絞めては、もがいて。ずっと、そんな風に想ってきた。そういうやり方でしか、多分私は泉を愛せない。それは、ずっと変わらないんだと思う。



「本当は別れてからも泉のこと、ずっと好きだった」


泉は何も言ってくれない。唇をぎゅっと結んだまま、真っ暗な海見つめていた。それはそうだ。こんなこと言われたら、困るのは当然のこと。でも、ほんの少しでいいから、私の気持ちもらってくれないかな。このままじゃ重すぎて、どこへも行けないんだ。


「会わない間は何とも思わなかったんだ…。それなのに、今日会ったとき、あの頃みたいに嬉しくて、信じられないくらいどきどきした。なんで、今更気づくんだろうね。諦め悪いの分かってる、けど……ごめんな、さい」


話せば話すほど、涙が込み上げてくるのが分かった。膝に顔をうずめて、泉から見えないように泣いた。これで友達ともさようなら。今日からは、友達より遠いただのクラスメートになってしまうんだなあ。泉に会えるからと気合いを入れたマスカラも、もう落ちているだろう。すべてみっともない。だから、余計涙が止まらない。


「いいんじゃねえの」


遠くで叫ぶ誰かの声に消えそうな、低い声。

「だって、私……」
「だから、聞けって」


ぐい、と身体が引き寄せられる。触れたところが、悲しいほど熱い。こんな風になるのは泉だけなのに、そうやって私を夢中にさせないで。これ以上なんて、ないよ。


「同じ気持ちの奴がいたら、別にいいと思うけど」
「え…どういう…」
「だから、俺も同じっつーこと」
「い、ずみもおなじ…?」
「お前も面倒くさいとこ変わんねーな」


頭に大きな手のひらが降ってくる。やさしく髪を撫でつけられるその仕草は、いつかの泉と一緒。


「好きだ」


飾り気のない言葉が、胸に届いた。ぐだぐだ並べた私の言葉が恥ずかしいくらい、まっすぐ突き刺さる。私も、まっすぐ想っていいのかな。照れながら目を反らしたあの表情は、いつも見ていた泉で、ちょっとだけ安心した。じゃあ、私もあの頃みたいに照れながら寄りかかってみよう。巡った夏が、今ここにあるよ。



20100824
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