ぐん、と背伸びをすれば冬の冷たい空気に触れて、なんだかあっという間にここまでやってきてしまったのだなあ、と胸がぎゅっと詰まる。去年の今ごろ、制服を着ていた自分が信じられない。まだ、ゆっくり息をする余裕もない時間を毎日やり過ごしていく。でも、夜寝る前に布団で深く息を吐き出したときに、やっぱり今日も寂しかったんだと実感する。もし隆也と同じ大学だったら、とか考えて余計悲しくなったりして。


無理をしたら、隆也に会えるのに、そうしない自分にも苛立ちが募った。ぽつり零した息が、降り続いている雪を少しだけ溶かす。まだ阿部の街では雪は降らないんだろうな。


もうすぐ会えるのに、私はいったい何をふさぎ込んでいるのだろう。アパートの階段を上がる足は、ひどく重かった。今日は、すぐに寝よう。


「おかえり」


その声が誰ものもなのか理解したとき、胸からじわじわと波が押し寄せてきた。私はこの人に会いたかったのだと、改めてそう思った。


「鼻赤いよ」
「あ?あぁ…」
「いつからここにいたの」


一瞬視線が泳いだのを、見てしまった。嘘をつくとき、左側を見るくせ。全く相変わらずだなあ、と思ったけれど、会いに来てくれた嬉しさと待たせてしまった申し訳なさで胸がいっぱいになった。



「それより腹減ったから、なんか作って」


せかされるように部屋の鍵を開けても、息は白く溶けるばかりだ。外となんら変わりはない。


久しぶり、ではないけれど、隆也がだんだん遠くなっていくような気持ちをいつも感じていた。職場のお姉さんたちが言う、「社会人と学生」の距離は身を持って感じていた。それに加えて、遠距離なんて、誰が望んだだろう。会いたいときに会えないつらさ。でも、それでも私には隆也が必要だった。そんな困難なんかより、ずっと。背中にぎゅっと抱きつけば、ほっとするような温度でご飯を作る気力が少しだけ減ってしまった。


「安心するー」
「俺は重いんだけど」
「もうちょっとだけ」
「ったく」

隆也と私は、いつも素直になれなくて。大切に思えば思うほど、簡単なことが言えなくなっていた。本当に大切なことも。恥ずかしくて、ためらったり。顔を合わせると、ふざけたくなったり。…でも、たまにはいいかな。


「私さあ、隆也のこと大好きだよ」
「ああ」



街はもうクリスマス一色で、ときどき寂しくなるんだ。あちこちを彩る電飾も、泣きたくなるくらい綺麗な星も、満遍なく世界を照らす。指輪も、ブランドのバッグも、豪華な食事もいらないよ。でも、隆也がいればいい。

なんて、可愛いことは言えなくて、少しだけ強く抱きしめてみた。


「俺も好き」


ちゃんと気持ちを伝えあえる人がそこにいれば、私はそれだけでいい。






1211 happy birthday 阿部*゜
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