暑いね、と水谷がアイスをかじる。しゃりしゃりして、しゅわしゅわなそれは、やけに爽やかな匂いがした。私は半分溶けかけているバニラアイスを口に運ぶ。ああ、あまったるい。


「やっぱり交換しよー」
「え、やだよ!それ溶けちゃってるじゃんか」
「けち」


素直に同じのにすれば良かったなあ。フェンスに寄りかかって空を仰いだ。透き通りそうな青。まだ夏は逃げていかないような気がして、私は諦めてまたへらで液体をすくった。次、水谷の前ではきちんと女の子になろう。意地を張らず、同じアイスを買おう。クラスにいる子みたいに、甘い匂いを振りまいて、髪の毛をくるくるにしたら、私もそんなことを可愛く言えるんだろうか。そんなの出来る気がしない。


「…髪伸ばそっかなあ」


指にも絡まない、短い髪。私はすごく気に入っているけれど、女らしさにたどり着かない元凶は、このせいだと思ってる。でも、それは言い訳でしかないことを分かっている。でも、ね。


「短いの可愛いじゃん」


水谷は平気でこういうこと、言うから。私は、いつまでも変わる勇気を持てずにいる。自分の見た目にも、この曖昧なわたしたちの関係にも。すっかり溶けてしまったアイスを、何度も何度もかき混ぜる。そこに変化なんて起きないけど、何かをしていないと、気持ちを落ち着けられそうにない。平気な顔して、私の喜ぶこと言うなんて、あんまりだよ。勝手に舞い上がってしまう単純な脳の造りに、げんなりする。


「あのさ、水谷」
「ん、何?」
「可愛いとか、簡単に言わない方いいよ」
「なんで?」
「なんでって…好きって誤解する人いるかもしれないじゃん、か」
「じゃあ、お前誤解したの?」


いつもみたいにからかってくれたらいいのに。そしたら、私だって冗談言えるんだよ。どうして、こんなときに限って、水谷はまっすぐな目をするんだろう。知らないふりをしようにも、鼓動は高鳴ってしまう。喉が詰まったみたいに苦しいし、私病気にでもなったんじゃないのか。期待しちゃいけないって思っても、期待しか出来なくなる。でも、水谷にだったら弄ばれてもいい。


「した、よ」
「本当に?」
小さく頷いた私の指を優しく掴み取る。その拍子にほんの少し残っていたバニラが流れ落ちる。アスファルトを、汚していく。甘く、静かに。まるでそれは私の心に入り込んでくる、水谷みたいだ。こんなにどきどきするのも、嫌いじゃない。願わくば呼吸の仕方が思い出せないくらいにしてほしい。どうしようもない。わたし、水谷がすき。


指先がたどり着いたのは、水谷の真っ白なシャツ。そっと触れてみると、私みたいに早いリズムを刻んでいる。



「俺もたぶん今同じ気持ち」
「信じちゃう…よ?」
「信じて。じゃなきゃ、オレ失恋しちゃうから」


ぎゅっと唇を強く結んだ。込み上げてくる笑いは、単なる照れ隠し。困ったように笑う水谷に、私ができることってなんだろう。とりあえず、大きな指を捕まえてみようか。



20101005
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