「まさかカードもチェスも強いマルコの弱点がじゃんけんだったなんて思わなかったぜ」
「うるせえよい」
「マルコが…じゃんけん」
「うるせえっつってんだろうが!」
空気がつんとしている。冬の朝、冷えきって結露の生まれた窓に触れる指先から伝わるような、無機質だけれどどこかロマンチックな冷たさ。
雪が積もっている。
「おまえはもっとはしゃぐかと思ったが」
「はあ?あんた俺をいくつだと思ってんだよ」
冷めた目で見返してみたら冷めた目で返された。その目が、マルコが普段俺を何だと思っているかを如実に表していて、俺は鼻を鳴らす。マルコは鼻をすすった。
雪はやみ、凍り始めている。雪かきをしながら時折つるんと滑るのを腰に力を入れて懸命に耐えるのがなんだかスリルがあっておもしろい。それは綱渡りに似ている。
「滑って海に落ちたら助からねえよな、俺ら。なんでカナヅチふたりで固まってんだか」
「おまえどれだけ盛大に転ぶ気だよい」
マルコは柵の高さを示すみたいに肘を張って胸元に腕をかざした。さあね、わかんない。俺は首を右に傾けるみたいに振る。マルコはそれを一瞥して柵に腕を置いて寄りかかり、顎に手をついた。海を眺めている。
デッキの反対側で、イゾウがサッチに向かってちんたらしてんじゃねえ!と叫んでいる。それを聞いてマルコはさりげなく休憩の姿勢を解いた。要領のいい男だ。
「1番隊隊長がじゃんけんに負けて雪かきたぁ平和だなあ」
「2番隊隊長がじゃんけん遅出しして雪かきたぁ平和だよい」
なんでこの海賊団は隊長格ほどじゃんけんが弱いんだろう。16人中5人がモップやシャベルを持ってデッキで白い息を吐いている。
こういった役割は下っ端に回ってくるのが理というものであるけれど、あの時間帯に食堂に行ったのが運の尽きだったと思うしかない。今日はこの場にいる中から雪かき番決めるぞとイゾウが意味の分からない提案をしたとき、俺は伸びたチーズを必死に追っていてマルコは食後のコーヒーをすすっていた。
今思えば、今日の掃除当番は16番隊だったはずだ。やられた。中には気づいていた者もいるのだろうが、残念ながら楽しそうなことは何にでも乗っかるのが海賊の性である。
俺が道具をすべて放っぽって両手を広げると、マルコが手を止めて俺を見上げた。俺は笑う。
「俺の炎で溶かした方が早えんじゃねえか?」
マルコは顎をあげて、持っていたモップを離し、笑った。
「早く終わったら遊んでやるよい」
ようし、一肌脱ごうじゃねえか。
11.02.16