ローランサンがぼんやりするのは珍しいことじゃない。どこを見ているのかわからないが――いや、どこと言うより何かを見つめているようにただぼんやりしている。それはまるで、美しい絵画をただ恍惚と見つめている人のようであったり、はたまた、滅多に会えない恋人を想っている女のようであったり。
 それは今の彼を知る俺にとっては奇妙なものであり、だが綺麗なものだった。

「ローランサン。」

ひとしきり眺め、満足したところで声をかける。気配に聡い彼が俺の存在に気付いていないはずもなく、別段慌てることもなく緩やかな動きでこちらを見る。
あの状態になった後の彼は非常に安定している。少し違和感があるが、普段の彼に比べると非常に落ち着いている。
 安定している、という言葉は、仕事が終わった後の彼を知っているからこそ出たものだと思う。仕事の後の彼は非常に不安定だ。放っておくと何をするかわからない、そんな雰囲気を醸し出す。殺気を外へ出した侭、顔は残虐な笑みを浮かべ、それでいて目は悲しげな色を宿す。全てがちぐはぐな彼を誰が放っておけるだろうか。怪我をした野良猫のような彼を。

「メシ出来たぞ。」
「おう、メルシー。」

ベッドから下り、テーブルまで来る。その動作が妙によそよそしく、やはり普段の彼からは掛け離れていて。
落ち着かないなぁと思いながら、テーブルの上に昼食を並べていった。

「……肉。」
「ない。贅沢言うな。」
「最近マジ肉少ないよな。俺、肉食いたい。」
「じゃあこれは要らないな。没収。」
「いや、いる。いるから取るな。」

ローランサンの皿を上に上げると、やっぱり腹が減っているのだろう、取り返そうとしてくる。微妙に必死なその様が可笑しくて、小さく笑いながら皿を戻した。
昼食を美味しそうに食べるその様子はいつも通りの彼で。変な安心感を感じてはたと気付いた。
 自分が落ち着かない理由が、ローランサンだったということに。

「……やっぱ食うな。」
「え、いやもう食ったし。」
「じゃあ吐け。」
「汚ぇし勿体ないだろ。」

呆れた風なローランサン。仕方ないだろ、こんな馬鹿なことに気付いてしまったんだから。元はといえばお前のせいなんだぞ。馬鹿サン。

「馬鹿サン。」
「はぁ?」

調子を狂わされたのが癪なので、取りあえずいつも通り罵ってみた。










100419

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ナチュラルにのろけるイヴェールを目指して撃沈。



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