吸血鬼パロの続き。
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 夜の酒場には、金、麻薬、女、あらゆるものが行き来する。そこに入り浸るのは盗賊だったり、闇商人であったり、はたまた殺し屋だったり。職種は様々だが、共通するのは皆「裏」の人間だということ。
 勿論、此処にいる以上俺だってこいつらと同類であると演じていなければいけない。非常に不本意である、が。なるべく舐められない様に、絡まれない様に、静かに弱い酒を煽る。酒を飲まなかったり、無闇に視線を動かしたり動いたりするのは初心者丸出しで非常に危険だ。俺みたいなひょろい奴が目をつけられたら、終わりだ。
 隣の席には男が座っていた。この世界で磨かれた屈強な肉体を酒に溺れさせ、汚れた仕事の武勇伝で女を惹こうとする姿は実に滑稽に映る。女も女で、男から金をむしり取ろうとして話を催促する。「貴方の話、とっても面白いわ。」なんて、聞きたくもないくせによく言うものだ。俺ならお世辞でもそんなことは言えない。

「悪い、待たせた。」

 そろそろ酒を飲みきろうとした時、隣から声をかけられた。顔を向けるとそこには黒い外套を羽織ったローランサンが居た。

「もういいのか?」
「ああ。もう十分だ。」

 ローランサンは足早に店の外へ出て、俺もその後に続いた。
 「表」の世界の者である俺がここにいたのは、他でもないローランサンが原因だった。森で倒れているところを俺に拾われたローランサンを用心棒として雇った翌日の夜、ローランサンは手を組んでいた盗賊と手を切るため、この酒場へ来た。滅多に外へ出る機会のない俺にとって、ローランサンの言った「出かけてくる。」は夢の台詞のようなものだった。朝から始まり屋敷を出る直前まで続けられた押し問答は実に五時間以上に及ぶ。俺の口車に負けたローランサンはしぶしぶ俺も伴って此処に来た。

「意外に早かったな。もっと時間がかかると思ってた。」
「これでもかなりかかった方だ。いつもなら早けりゃ三分で終わる。」
「へぇ。」

 ローランサンと俺は明るいうちに屋敷へ戻るために森の方へと歩いて行った。今は大体午後五時。まだうっすらと明るいが、最近は物騒だ、油断はできない。久しぶりの外出は何をしたわけでもないがとても楽しかった。空気が違うんだろうか、屋敷の中の曇った空気はどうしても好きになれない。書庫は別だが。

「たっく、危ないから屋敷にいろっつったのに。」
「最終的に折れたのはローランサンだろ。今さら文句言うな。」
「わかってるよ。はぁ……何にもなかっただろ。」
「いいや?収穫はあったさ。」
「え?って、それ酒場にあったやつじゃん。」
「いらないらしいから、拝借してきた。返すつもりは無いけどな。」
「……イヴェールさ、盗賊に向いてるよ。」
「そりゃどうも。」

 実はもうひとつ、収穫はあったのだが。ローランサンにはそれを言わないでおいた。
 俺の一歩手前を歩くローランサンは、盗賊にしては小柄で細身。俺の中の盗賊は酒場で見た大男みたいなイメージだし、一般的な盗賊もきっとそうなんだろう。だが、ローランサンはその中でもイレギュラーだった。酒場に行って実際にこの目で見て確信した。同業のものと手を組んでいた、ということから、ローランサンはよっぽどの腕前だったのだと思う。でなければ、利益優先の彼らがこんな細身の彼と組むはずがない。盗賊事情には詳しくないが、それくらいの損得勘定は出来るつもりだ。
 つまり。ここから推測できるのは、ローランサンは食糧難で倒れるほど金が無かったはずがない、ということ。組んでいる相手がいたなら尚更だ。ということは、空腹で倒れていたのはある種の自殺願望から出た行動だったのかもしれない。だけど、申し訳ないとは思えなかった。

「おい、どうした?」

 はっと気付くと、ローランサンが訝しげにこちらを見ていた。すでに屋敷の近くまで来ていたらしい。考え事をしていると本当に時間が過ぎるのが早い。軽く笑って、何でもないよ。といえばローランサンは目を顰めたものの、特に詮索はしてこなかった。
 扉の鍵を開け、屋敷の中に入る。使用人は最小限しかいないため、食事は自分で作る。丁度夕飯時だったので俺は台所へと向かった。ローランサンは二階に与えた自室に行ったようだった。
 今から作る料理は一人分。なぜならローランサンがいらないと言ったからだ。これによって更に疑問が渦巻く。空腹で倒れたのに、食事はいらない?変だ。絶対に変だ。
 ……やめた。俺は手に持っていた食材を机に置いて、真っ直ぐローランサンの部屋に向かった。うだうだ一人で考えても仕方がない、気になるなら本人に聞こう。
 部屋の前に立ち、扉をノックする。しかし、返事はない。変だな、部屋にいるはずなのに。もう一度ノックするがやはり返事がない。……寝たのか?いや、それは流石にないだろう。

「……ローランサン、入るぞ?」

 一言断ってから部屋の中に入った。
 真っ先に目に入ったのはベッドの上で苦しげに蹲るローランサンの姿。

「っ、ローランサン!!?」

 慌てて駆け寄る。苦しげに呼吸を繰り返すローランサンは汗だくで、でも顔色は真っ青で微かに震える身体は燃える様に熱い。急いで水を取ってこようと身体を反転させようとした。
 しかし、それは叶わなかった。視界は一転し、俺は仰向けに倒されていた。目の前には目が据わっていて微かに殺気すら感じる形相のローランサン。苦しげな様子はそのままに、彼は口に歪な笑みを浮かべた。

「イヴェール……。」
「ローランサン?おい、どうした?」
「イヴェールって、綺麗だな。」

 首筋に手をあてられる。そのまま人差し指と中指で筋をなぞられ、爪を立てられる。ぎり、と音がなりそうなほどで、その痛みに顔を顰める。ぬるりとした感触がし、そのあと感じたぬるま湯が伝うような感触。恐らく血が出たのだろう。本気で痛いし、首を押さえられて微妙に苦しい。
 ローランサンは口元へ血の付いた指を持っていき、ペロリと舐め、そしてうっとりと目を細める。まるで獲物を目の前にした、獣のように。

「本当に、美味しそう。」

 ヤバい。背筋を伝った悪寒に、考えるよりも早く身体は動いていた。
 俺は真上にいたローランサンの腹を蹴り上げた。不意打ちによろけた隙に腕を引き、横腹を膝で押して体制を逆転させた。片手で手を押さえてもう片方の手でローランサンの肩を揺さぶった。

「おい、ローランサン!!」

 そうするとローランサンはキョトンとした顔でこちらを見上げてきて。戻った、とほっとした瞬間、ローランサンは顔を真っ青にさせた。

「良かった、戻ったか?」
「あ、……っ!」
「落ち着け、ローランサン。大丈夫だ。何もしないし、されてもいない。」

 ひどく怯えた様子のローランサンに声をかけ、落ち着くようにと頭を撫でた。しばらくすると呼吸も落ち着いたようで、ローランサンは緩く首を振った。

「……悪かった。」
「そう思うなら理由を話してくれないか?」
「ああ、ちゃんと話す。」

 ローランサンは一度深く深呼吸をし、俺と向き合った。

「……俺は、吸血鬼なんだ。教会が血眼になって探している、あの吸血鬼だ。」
「……吸血、鬼。」
「そう。……吸血鬼を助けたと教会が知ったら、イヴェールも処刑されちまう。」

 歪められた表情は見ているこっちが痛々しくて。指先が白くなるまでぎゅうとシーツを握り締めていた。

「……ごめん。助けてくれたのに、仇で返してごめん。俺、すぐ出ていくから。」
「ローランサン。」
「首の怪我、本当にごめん。助けてくれてありがとう。」
「ローランサン!!」

 肩を持ちローランサンと目を合わせた。何勝手に終わらせようとしてんだ。

「逃げるな。俺は別に構わないよ。ローランサンに血を吸われることより、我慢しすぎて今みたいになる方がよっぽど迷惑。」
「でもイヴェール!もしばれたら……!」
「ばれるようなヘマをするつもりか?」
「そんなわけないだろ!」
「ならいいだろ。なんの問題がある?馬鹿は馬鹿らしく、難しいことは考えるな。」

 わかったか?そう聞けばローランサンは呆気に取られたように口を開いていて、思わず笑った。くつくつと笑っているとローランサンもつられたように表情を崩した。

「馬鹿って、久々に言われた。」
「そりゃ良かったな。久々に言われた感想は?」
「最悪。……ありがとう、イヴェール。」
「どういたしまして。」

 和やかな雰囲気が戻り、やっとローランサンとちゃんと向き合えた感じがした。見えない壁が消えたようで少し嬉しかったのは秘密だ。
 そんな中響いたのは、犬が鳴くような音。急に響いたそれに驚いてローランサンを見ると、顔を真っ赤に染めていた。

「……とりあえず、ご飯にしようか。」
「……おう。」

 真っ赤に染まる顔がさっきと真逆でおかしくて。俺は人生で一番といっても過言でないほど、大声を出して笑った。






from now on
二度目のはじめましては、言わなくてもいいよな。


100425

……………………

長い……!


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