無駄にあっつい中でも不思議と人肌が恋しくなるもので、そうなると求める相手は近くの人物となる。自分でも頭が沸いているんじゃないかと思う。反対に、若いんだからこれが普通なんだ、とも。つまるところ俺は物凄くイヴェールとキスしたい。
 さっきから視線を送ってみたりするけど完璧に気付いていない。そうですよね、イヴェール様は現在楽しい楽しい読書をしておられるんですよね。何が楽しいのかさっぱり理解できないし、する気もないけど。
 そんなわけで、イヴェールは俺の気持ちなど露も知らず読書に勤しんでいる。生殺しのような感覚をひしひしと味わいながらも、しかしどうしても気持ちを抑えることは出来そうにもない。加えてこのじめじめとした空気は謀らずともイライラやむらむらを増幅させる。ストレスと一緒に色々たまる感じ。関係ないとかそういうのは今どうでもいいや。
 机に顎を乗せながら恨めしげにイヴェールを見つめてみても完璧無視。視線には気付いているかもしれないが、彼の頭の中では本>俺という不等式が成り立っているに違いない。若しくは、今が丁度話の佳境に入って良い感じだから集中してるのかもしれない。どっちにしろ俺にとってはよろしくないのだ。
 だから、敢えて俺はその空気を邪魔してみることにした。腹いせとも言うかもしれない。

「イヴェール、ちゅーしたい。」

 空気が一瞬にして固まる。相変わらずイヴェールは本を見ているが先程までとは全然違う。まず、視線が動いていない。動揺しているのが見てとれて凄く楽しい。
 返事を聞かないまま机の上に乗りだしてイヴェールの腕から本を奪い去って机の上に置いた。前に怒られたからちゃんとしおりも挟んだ。固まったイヴェールを動かすために、もう一度話しかけてみた。

「イヴェ、ちゅーしたい。」

 今度は一音一音区切りながらはっきりと言った。イヴェールは二、三度瞬きをした後呆れとも照れともなんとも言えない表情をした。はああ、と大きく溜め息をついて顔を右手で覆う。

「何で。」
「何でも。」
「今丁度オチのところなんだけど。今じゃないと駄目か?」
「うん、駄目。だって俺、もう一時間ぐらい待ったし。」
「……そうだったのか。」

 俺の渾身のサインには全く気づいていなかったらしい。しかも今オチだったとか。俺の予想はどちらもばっちり当たっていた。これで俺もイヴェールマスター。ははは全然嬉しくない。
 当然ながら、一時間も待っている俺はもうちまちま待ってるなんて出来なくて、色々なものを天秤にかけて葛藤しているイヴェールの顔を持って遠慮なくキスしてみた。程よくしっとりしている薄めの唇の感触がやっぱり好きで今さら遠慮をすることもなく軽く啄んでみる。イヴェールは一瞬驚きはしたが呆れた表情を浮かべたその後はされるがままだった。
 イヴェールとのキスは気持ちいい。唇の感触が自分好みでついつい自身のそれで食んでしまう。たまに舐めたり噛んだりすると本当にイヴェールを食べてるみたいな錯覚に陥る。それはそれで美味しそうだ、と考える程度には俺の頭はすっかりこの暑さにやられているようだ。
 唇を離すけど、どうもそれだと口寂しくなって。とりあえず顔中にキスしてみた。

「毎回多いよな。」
「うっせ。」

 頬、額、瞼、鼻。顎にはついでに噛みついてみた。怒られたけど。そして結局もう一回唇にキスをしてみた。今度は舌も入れて口内を味わってみる。ちょっとコーヒーの味がして、朝コーヒーだったっけ、と頭の隅で考えた。イヴェールの唾液を舌に絡めてみると思いのほか温かくてなぜかびっくりした。ほら、イヴェールってなんとなく冷たいイメージだったから。イヴェールの舌と絡めたり歯をなぞったりしていたが、いい加減に口も疲れたし何より体制が厳しい。背中から腰にかけての限界を感じてようやく唇を離した。
 ふう、とどちらともなく一息。息はほとんど荒れていないけど気分も切り替えたいし。
 満足したなー、と思って再び椅子に座る。勢いよく座ったので古い椅子は軽く悲鳴を上げた。そのまま一伸び。背中がこきっと音を立てた。

「なんだ、もう良いのか?」
「もう十分。俺は回数は多いけどイヴェールみたいにねちっこくはないんですー。」
「失礼な奴。ま、」

 否定はしないけどな、という声がしたと思ったらいつの間にか目の前一面にイヴェールの顔が広がっていて。うわー綺麗だなとか睫毛長いなーとか、それどころじゃないけどそんなことばかり考えてた。ねっとりと舌を絡め取られると自然とこちらからも絡めてしまう。気持ちいい、とイヴェールの頬を持って伝えた。
 イヴェールの上品だがどこか淫らなキスはしつこい。気持ちいいから結局はどうでもよくなるけど毎回そう思ってしまう。俺が回数ならイヴェールは長さ。口内を余すところなく全て貪られる感じがどうしても慣れない。
 くちゅ、と音が鳴るとそういう気分になるのはまだまだ俺が若いからで。だから仕方がないんだ。気付けば自分もイヴェールを貪っていた。ってこれじゃあ俺も共犯者じゃないか。いや、立場的にはあながち間違いでもないか。

「んっ……イヴェ、」
「………仕方ないなぁ。」

 何が仕方ないだ、長いっつの。という文句は言いだしっぺが自分である以上下手に言えないので心の奥にしまっておく。多少荒れた息を整えているとイヴェールはまた席に戻って本を読み始める。しおりを挟んだことに対する感謝の言葉は無い。当たり前か、俺が勝ったに閉じたんだし。
 結局手持ち無沙汰になった俺は今日の午後を愛刀の手入れに費やすことに決めた。






多いか長いか
結局キスするのが好き


100711

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茶会宿題こと懺悔。こんなもんですが、寝落ちしたこと許して下さい某様方…!
要はローランサンにちゅーって言わせたかった←
そしてイヴェールの顎にかみついて欲しかった←

最近サンイヴェっぽくなってきてる気が。いや、また書くけどね!!←

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