お礼二つ目です!
本当に、遅くなって申し訳ございませんでした…!><
サンイヴェにもイヴェサンにも見えるので、それは嫌!という方は、申し訳ございませんがブラウザバックをお願いいたします…!











「ゲーセン行くぞ。」

 ローランサンにそう言われ、動きが止まる。そういえばそんな時期だったかな、と視線を移して、またかという呆れから出るため息を零した。そんな様子を気にも留めていないローランサンは、静かに返事を待っていた。


「今から?」
「今から。」
「また?」
「ま・た!いいじゃん、どうせヒマなんだろ?」
「暇だけど……」

 嫌だな、とは口に出さずに呟いて、鞄を肩に掛けさっさと教室を出た。ローランサンもすぐについてきて、自然と隣に並ぶ。ちら、と視線を向けると向こうもこっちを見てたらしく視線がぶつかった。居心地が悪くてすぐに逸らしたが、ローランサンは大して気にした様子でもない。落ち着かなくなって、先に口を開いた。

「よく飽きないな。」
「うーん、なんつーか……あんまり金を使わないようにしてるってのもあると思うけどな。モノを貰えるってのもある。」
「割りに合わないのに?」
「ゲームの楽しさプラスアルファで元取れんだよ。」
「ふぅん。俺には分からないけど。」

 口にした通り、俺にはローランサンのいうゲーセンの楽しみというものがわからない。景品はまあ嬉しいし、取ったその時はテンションも上がるけど、やっぱり割りに合わない。だから自分でするのは嫌だったが、まあ、ローランサンについていって隣で見る分には好きだった。見るだけ、なら。
 あいつは、あまり景品自体には興味がないみたいで、ゲーセンについていくと毎回必ず何かしらを渡してくる。なんとなく、無条件に奢られているような感じが、フェアじゃない気がして。それだけが唯一嫌だった。
 そんな気持ちなど知るはずのないローランサンは、さっさとゲームセンター内へと入っていった。

 ローランサンは早速小さめの人形を取った。次いで猫を取ろうとしているらしくクレーンを上手く動かしていたが、少し手前で止めてしまい、取れるかどうかは怪しそうだ。

「……取れるか?きつそうだけど。」
「んん、きつい……あ、失敗。」

 そう言ってはいるが、さっさともう二百円入れてアームを動かしていた。縦と横に移動させ、悩むことなく沈ませたアームは見事に猫を押し出した。

「うっし、取れたー!」
「最初から五百円入れた方が安上がりだったな。」
「いいの!取れたから!あ、まだやるからこれ持ってて。」

 早速景品を渡され、今日は持って帰らないからな、という意味も込めてローランサンを睨んでやった。が、曖昧な笑顔を浮かべたあいつに意味が通じているかどうかは怪しいところだ。多分、伝わってない。重いため息が口から吐き出された。ぬいぐるみで溢れつつある部屋を思い出せば、二度目のため息が容易く口から出た。
 ローランサンはそうこうしている間にも次々と景品を取っていく。小さいヒヨコやら、お菓子の箱やら、手当たり次第になんでも取ってくれるおかげで、手の間からヒヨコが飛び出しそうだ。

「持てる?」
「キツイ。というか、自分で取ったなら自分で持ってろよ。」
「終わったら持つって。あと五百円だしちょっと待って。」
「ローランサンに荷物持ち扱いされるなんて……心外だ。」
「いいじゃねーか、似合ってるぞ?その猫とか、イヴェールそっくりだし。」
「後で殴るからちゃんと覚えてろよ。」

 ひく、と動いた表情のまま、ローランサンに低い声で宣言してやるが、きっと忘れただのなんだの言われて躱されるだろう。走り去った背中を見て、想像できる近い未来の話に苦笑が零れた。

 逃げたローランサンを追いかけた先で、ガラスに張り付くようにクレーンを動かしているローランサンを見つけた。普段はシュールなものとかキモ可愛い系を狙っているローランサンには珍しい、女子に人気のありそうな可愛いものを必死に狙っている様子に、驚きからへえ、と言葉が出た。

「ローランサンがウサギ。」
「意外?」
「意外。」
「言うと思った。俺もそう思うし。」

 自覚はあったらしい。クレーンは人形の重さに負け動かせなかったらしい、何もしないまま元の場所まで戻って行っていた。表示を見れば、あと二回しか残っていないみたいだった。
 今度は今度は脇の下から押すようにして落とすことにしたらしい。横からガラス越しに場所を確認し、慎重にボタンを押す。

「どうだっ。」
「きついな。」
「いや、でも…おお…?」
「ん……?おお……」
「お、おおお…!!…あー!!」
「あー。」
「そこは一番駄目なところ…っ!」

 腕と胴体の間にバーが挟まった、一番嫌な体制。半ば敗北が見えたようなものだ。こんなの、重い人形じゃあ持ち上げるのも動かすのも出来ない。
 ゲーセンに毎日のように来ているローランサンにこの状況のまずさがわからないはずもなく、がっくりと項垂れて、ゆるゆると顔を上げて人形を見つめていた。


 最後の一回。もう引っかかった腕の下にアームを押し込むしかない。さっきよりも必死に、ガラスにへばりつくようにして位置を調整する。今回ばかりは協力して、二人して必死になってガラスの周りをうろついた。
 俺が指を当てた場所へローランサンがアームを移動させる。がが、がが、といかにも機械と言う音を立てながら、クレーンは下りていく。予定よりも、ずいぶんとずれた場所に。

「これは、うん、無理だ。」
「諦めるな!!」
「いやローランサン、どう見ても無理だ。無理だから。」
「お前ならできる、できっ……なかった……。」

 微動だにしないまま、ウサギはその場にとどまった。ローランサンは試合後のボクサーのように項垂れ、小さくお前の勝ちだよ、ウサギ、と呟いていた。
 ローランサンがここまで悔しがるのが珍しくて、つい出口に向かっていると気付くまでに時間がかかった。ローランサンに追いついて、隣に並んで表情を窺って見る。ちょっと泣きそうだった。

「いいのか?可愛いウサギ。」
「可愛いっての強調すんな。」
「まあまあ。で、ウサギは?」
「んー、粘りたいけど、俺もう金使えないから。悔しいけど一週間は諦めるわ。」
「ふぅん。」

 そうか、諦めるのか。珍しい。
 だが、それとこれとは話は別だ。腕に抱えていた人形などの諸々を差し出すと、ローランサンは苦笑を浮かべていた。

「俺いらねーからイヴェールにあげる。荷物持ちのお礼!」
「毎回人形を大量に持って帰る俺の身になってくれない?部屋が人形で溢れてるんだけど。」
「いいじゃん。イヴェールに可愛い人形、すげえ似合うって。」
「可愛いを強調すんな。なに、意趣返し?」
「俺、馬鹿だから難しい言葉ワカンナーイ。」

 けらけらと笑っているローランサンにイラついて、また笑みが歪む。しかし、腕の中で大人しくされるがままの猫の肉球がささくれ立った心を癒し、俺はなんとか出しそうになる手を押しとどめることに成功した。







 翌日、ローランサンと別れた後ゲームセンターに来た。昨日、結局あきらめてしまったウサギはどうやら人気らしい。ウィンドウの中から何匹かはすでにいなくなってしまっていた。

 昨日、家に帰ってから、腕の中の人形を見てひらめいたのだ。そうだ、何かを自分もローランサンに渡せば、この妙なアンフェアな感覚は消えるだろう。
 今の甘やかされているような、なんとも不本意な状況を打破すべく、俺はローランサンにウサギをくれてやることにした。

 ためしに五百円を入れた。いつもローランサンと落とし方を研究していたから、どこをどうすればいいかはわかっていた。首と胴体の間を狙ってアームを動かした。
 だが、何度やっても取れなった。アームが思ったところに行っても、思ったように人形が動いてくれなかった。これは、思っていたよりも難しい作業なのかもしれない。ここでようやく頭の中にサイレンが響いたが、時すでに遅しだった。ここまできたら、どんなに損をしようが、絶対にローランサンにウサギを渡す。

 妙な使命感すら感じながら、一週間通い詰めた。

 ゲームセンターに付くと、ローランサンと入店する中でかなり仲良くなっていた店員とあった。お互い会釈しつつ、店員はこちらに話しかけてくれた。

「今日もウサギですか?」
「はい。取れればいいんですが。」
「もうラスト一匹ですしね…」
「えっ」
「ああ、ラストになったんですよ。あの白の子です。」

 指を指された先には、耳を縛られ吊るされたウサギの姿が。若干痛ましい姿に眉が下がった。

「今日は取ってください。あんなにやってもらったんですから、あなたに取ってもらわなきゃ、困りますよ。」

 では、と言い去って行った店員に、これ以上なく感謝した。
 ウサギの耳を擦るようにして、何度もクレーンを動かすこと、丁度十回目。ようやっとウサギを落とせ、嬉しさのあまり大き目の声でやった、と言った。すると周りから拍手が巻き起こり、そこで初めてギャラリーが出来ていたことに気付いた。
 恥ずかしい。俺はウサギと一緒に全力でそこから逃げた。








 次の日の放課後、ローランサンにウサギを突き出してやった。目を丸くし、何度もこちらとウサギを交互に見るローランサンに、一抹の不安が過ぎる。もしや、ウサギはもういらなくなっていたのだろうか?

「なんだよ。」
「え、なんだよってか、え、なに?」
「だから、これやる。」
「え、イヴェールが?俺に?何の得もないのにこれを?んなわけないだろ、裏があるんだろ裏が!」
「ローランサン、ちょっと後ろ向いてろ、なに、ちょっと目の前が真っ暗になって夜まで寝るだけだ。というか、さっさと取れ。」

 いらないと言われる前に突き出すと、おとなしくローランサンは受け取って、ただ目をぱちぱちと開閉していた。

「何、いらない?」
「いや、欲しい!つかえ、え?なんで?」
「たまたま取れたんだよ。普段馬鹿みたいに貢がれてるから、それでチャラな。」
「え、貢いでるわけじゃねーけど、これいいの?ゲーセンじゃこれレベルはレアだぞ!?」
「だから良いって。たまたま取れただけだしな。」

 ああ、よかった。まだウサギの需要はあったらしい。それでこそ俺の七千円も浮かばれる。安心からか笑みが自然と口元に刻まれていた。

「イケメン!抱いてっ!」
「馬鹿サン、鬱陶しいから。あと、今日はもう帰るから。」
「あ、そうなの?いや、もうマジでありがとう!イヴェールさんきゅな!」

 ぱっと咲いた笑顔に、まあ、これでいつもの丁度いい関係に戻れただろう、とほっとした。顔を埋めて喜ぶ様子を見れて、こちらの嬉しさもひとしおだ。
 どういたしまして、と残して、用事を片付けるために今日は別れた。明日、またゲーセンに行くことになった。







 翌日、ゲーセンにて。
 いつもどおりローランサンの取った景品を持ちつつ、ずっと妙な違和感を覚えていた。妙に量が多い。そして何より、いつもはじっくり何をやるか物色するローランサンが、目にはいるクレーンゲームをすべてプレイしている。なんだ、こいつ、破産するつもりか。

「ローランサン、これ、いつまでやるんだ?結構使ってるだろ?」

 ローランサンは、こちらを振り向き、そして良からぬことを企んでいる時の顔で、にやりと笑った。


「七千円分やる気。」
「はぁ!?ローランサン、お前、馬鹿じゃないのか!?止めろ!」

 だが、こちらの言うことなんて初めから聞くつもりないのだろうローランサンは、けらけらと笑いながら店内をまた移動し始めた。
 その嬉しそうな横顔に何も言えず、結局、今日も俺はあいつに付き合うのだ。




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