【8月新刊】盗賊小学校教師パロディ【サンプル】

この度、八月のイベントで本を出すことになりましたので、そのサンプルをこちらにこそっと掲載させて頂きます。以下のサンプルを閲覧下さる際は、大体予想がつくでしょうが、必ず一番最後までお読みください。
それでは以下、新刊サンプルです。
イヴェサンにもサンイヴェにも見えますので、どちらかしか無理だ!とおっしゃる方はどうかブラウザバックお願いします。







***

 春、桜が吹雪き子供たちの楽しげな声が響く。きゃっ、きゃっ、とはしゃぐ愛らしい姿に自然と頬は上がり目尻は下がって、柔らかい笑みの形になっていた。
 一人の子供がこちらに気付いたようで、花が咲いたような笑みを浮かべながら手を振ってくれる。それに大きく手を振り返せば、こちらまで嬉しそうな声が聞こえてきて、胸のあたりに温かいものが広がった。その子はしばらく笑い、ふと不思議そうに首を傾げたかと思うと、もう一度大きく手を振り始めた。負けじとこちらも振り返そうと手を伸ばした。ところが、ぱこっという後ろからの衝撃により俺の手は所在なさ気に空をきった。

「バーカ、俺に手を振ってくれたんだ。」
「……イヴェール先生、暴力反対。」
「暴力じゃなくてスキンシップだよ、ローランサン先生。」
「スキンシップとか言うならせめて手で叩けよ、それ日誌じゃねえか!」
「おお、怖い怖い。」

 けらけら、愉快そうに笑ったイヴェールはそのまま件の子供に手を振る。すると、子どもは俺の時よりもずっと元気に両手を振り回して、なんとなく負けた気分になる。

「……なんで、俺よりお前のが人気なの……?」
「偏に人望じゃない?」

 ――なんだろう、理不尽だ。


***


「あー……、もう、疲れた。」

 椅子に凭れかかると、古いそれはぎし、と怪しげな音を立ててしなった。瞼の上に手を乗せ、顔との温度差にほう、と息を吐いた。手首で眉間をぐりぐりと刺激して少しでも目の疲れを誤魔化そうとしたけど、案外効果はなさそうだ。

「お疲れさま。」
「おー……疲れた。」
「こればっかりは、な。」

 手を退けてみると視界に右手の何かを突き出しているイヴェールが映った。一度ぐっと伸びた後、元の姿勢に戻って椅子ごと振り返ると、コーヒーを片手にコーヒーを飲むという、何とも珍しい光景が繰り広げられていた。
 ずい、と差し出されたそれは、きっと俺の分なのだろう。ありがたく頂戴すべく手を伸ばしたが、すい、と遠ざけられて一瞬目が点になった。

「え、なに、くれねーの?」
「ローランサン先生、先に言うことがあるでしょう?」

 にっこり。その辺の女の人よりもずっと綺麗な微笑みは、しかし出す場所を違えるだけでいくらでも印象が変わることを、ここ数年で俺は学習済みである。

「どうもありがとうございます、イヴェール先・生。」
「ローランサンにしては良くできました。」

 ひくついた頬を無視して今度こそイヴェールの手にあったコーヒーを奪うようにして取る。一気に中身を呷ったは良いものの、予想以上の苦みに顔を顰めた。

「苦っ。」
「今はそれくらいで丁度良いだろ。あとひと踏ん張りする前に倒れちゃ本末転倒だ。」
「そりゃそうだ。」

 舌を出して苦みを分散させようとするが、大して効果があるわけでもなく、徒労に終わる。隣ではイヴェールが眉を顰めつつ、俺と同じようにコーヒーを飲んでいて。うっすらと浮かんでいる隈が不健康。全体的に色素が薄いイヴェールだと、今にも倒れそうに見えて正直怖い。
 椅子に座り、またパソコンの画面と格闘を始めようとしているイヴェールを止めようと話題を振ってみた。

「最近どう?そっちのクラスは。」
「まあまあ、かな。男女仲が多少悪い以外は特に困ったこともないけど。」
「ああ……確かに、ちょっとぎくしゃくしてるよなぁ。なんかあったの?」
「あれだ、例の二人のボス争いというか。」
「……あー……」

 覚えがあるようなないような会話に、思わずつまる。問題の片方はきっと、去年俺も手を焼いたあの男子だろう。なんとなく、自分の子供が迷惑をかけているような気分になって小さく謝った。



***

 夕方、帰りの電車の中で珍しくイヴェールが舟を漕いでいた。ふらふらと安定せず揺れる頭を見ていると、この珍しい光景を是非とも映像として残したくなってくる。あとの仕返しが恐ろしくて実行は絶対できないけど。
 目を閉じると案外幼く見えるらしい。見たことないほど毒気のない、というかあどけない表情をされると、まるで教え子の居眠り現場を目撃したようで微笑ましい。ふ、と漏れた笑みに反応したのか、うすらと目を開けたイヴェールの目を、今度は自分の手を使ってもう一度塞いだ。

「……何するんだよ。」
「はいはい。俺がちゃんと起きてるから、寝ちまえ。」
「……ローランサンに頼る日が、くるなんてなぁ……。」
「うっせー。」

 ぽす、と少しだけ、肩に重みが増す。しばらくその場にお互い黙ったまま、がたんごとんと揺れる電車に身を任せていた。

「……今度、ローランサンの奢りで飲ませろ。」
「はぁ?ぜってー無理。無理だかんな。」
「うるさい、お前に拒否権なんかない。」
「理不尽。」
「なんとでも。」
「ひでえ奴。」
「知ってるだろ。」
「ん。知ってる。」

 もう一度、静かに知ってる、と繰り返した。それをどう受け取ったかなんて俺が知るわけないけど、きっと俺の言いたいことは伝わっただろう。イヴェールは、それから電車を降りるまで一言も話すことはなかった。









以上で新刊サンプル終了です。ちなみに、この新刊が発売されるイベントはありません。ありません。
ええ、そうです、エイプリルです。遅れに遅れたエイプリルです。本当は当日にやりたかったんですが…遅れてしまったうえ、ちょっと自分の中の貧乏神が「もうどうせだしさぁ」と甘言を吐いたせいです、申し訳ない。峰に新刊を出す勇気などありませんでした。

ということで、今年のエイプリルでした。管理人は楽しかったですー!すみませんっ><




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