色々ありすぎて…もう、本当にありがとうございました!!お二人とも大好き!
ということで、昨日に引き続きホームズネタです。苦手な方はバックをば。
ホームズ2(シャドウゲーム)のネタバレを含みますので、そちらが苦手な方もブラウザバックをお願いします。

以下、昨日と似たような盗賊ですww








 三日ぶりに訪れた邸宅は、相変わらずの雰囲気で俺を迎えてくれた。光を受けて輝く窓からはあいつの姿は見えず、柄にもなく不安になった。夫人からのヘルプコール、もとい電報があってから急いでこちらまで足を運んだものの、やはり幾らかのタイムラグが生じてしまう。その間にくたばっていないことを祈りつつ、以前のようにドアを二回ノックした。

「夫人、夫人?ローランサンです。」

 いつもよりも少し大きめに呼びかける。懐中時計を見れば時刻は朝の十時半ごろで、もしかすると彼女は出かけているかもしれないと今更ながらに不安になった。しかし、そんな心配もほんの一瞬で、目の前の扉が思ったよりもずっと勢いよく開いて、反射的に後ろに退いた。

「ボ、ボンジュール。」
「ああ、ローランサン!お願い、彼に何か食べさせて!」

 もう三日も変な草や妙な飲み物ばかり!と悲鳴を上げる夫人を前に、失礼とは思いつつも、額に手をやらずにはいられなかった。眉間に指を当てて、せめて皺を伸ばそうと努力もしてみるが、勿論無意味だ。早々に諦め、あいつの近況を聞きだすべく、とりあえず家に上がらせてもらうことにした。

「彼は?」
「部屋にこもりっぱなし。私にはどうしようもないわ。」
「あー……そう、ですか。」
「ごめんなさい、お願いするわ、先生。」
「はは、流石だ、男の扱い方を心得ていらっしゃる。」

 そこまで言って頼まれれば、断ることなどできるはずもなく。「お任せを、マドモアゼル。」なんて気障な台詞を放ってから、件の奴――イヴェールの部屋へと入って行った。

 いつも、いや、以前通りにドアを二回ノックすると、中からくぐもった声で「どうぞ。」と聞こえてきた。またなにか良からぬことでも企んでいるのでは、という嫌な予想が過ったが、うだうだ考えるのも性に合わず、勢いよくドアを開けた。

 その刹那、眉間に猛烈な痛みが奔った。

「あああいってええええ!!」
「はーっははは!油断したな、ローランサン!」
「何、なんなの!?お前何がしたいの!!?」
「お前が出ていくから悪いんだ、精々反省しろ。せいっ」
「痛い!痛いそれ痛いからやめて!!」

 痛みの正体は、突然放たれたおもちゃの弓矢だったらしい。何発か連続で撃たれたのを避けつつ、ようやっとおさまり始めた痛みにほっと胸をなでおろす。

「なにすんだっつの……」
「いや、悪い。ちょっと色々あって。」

しばらく続いた攻防戦ののち、顔を上げるとそこには、とんでもない隈をこさえたイヴェールがいた。

「おま、それ…死ぬぞ……。」
「ローランサン、遂に本職の医師までもがクビになったのか?良く見ろ、俺は生きてるぞ。」
「ちげーよ、そのうちって意味だよ。ったく、なんでそんな自殺志願者みたいな生活してんだっつの…!」
「ん?自殺志願者?なんで俺が自殺するんだ、馬鹿だなあ。」
「ああはいはい、わかったから座る!」
「いや、その前に再開の抱擁くらい交わそう。会いたかった、ローランサン。」

 思いの外強く抱擁され、すっかり痩せてしまったその体を実際に肌身で感じ取ってしまい、あまりの痛々しさに顔が歪む。イヴェールは、先程とまったく変わらない様子で俺の背に手をまわし、「本当に、会いたかった。」と最近じゃオペラでもなかなか聞かない甘い台詞を吐いている。俺は全力でそれどころじゃないだろ、と言いたい。

「……痩せたな。」
「お前は太った。運動不足じゃないか?」
「抜かせ。どっかの誰かさんのおかげで今日は二日分は運動したね。」
「それはそれは、その誰かさんに感謝すべきだな。」

 まあこっち来いよ、と呼ばれた部屋についていく。いつだってまとまっていない書斎が恐ろしいほど綺麗に整頓されていて逆に不気味だった。ふと机の上に視線を走らせると、そこにあった液体に背筋が一瞬で凍った。

「お、前……」
「何?」
「それホルムアルデヒドだろ……。」
「そうだけど、何?」
「……、医者として……」
「聞こえない。」
「お前の一、友人として!」
「……。」
「言っておく、やめとけ。」
「……忠告として、ありがたく受け取らせてもらうよ。」

 そう言いながらも、透明なそれをグラスに注ぐあいつを見て、もう何も言うまいと手近にあったワインをグラスに注いだ。透明なそれとブドウ色のそれを重ね合わせれば、ちん、と小気味良い音が鳴った。

「お前の健康に、乾杯。」
「……。」
「っとに、悪趣味。」

 くいっと一気に煽り、勢いのままテーブルにだん、と打ち付けた。イヴェールは音にいらだったのか、片眉をくいと上げて不機嫌ですオーラ全開だ。

「行儀が悪いぞ、ローランサン。」
「ホルムアルデヒド飲んでるやつにだけは言われたくない。つか、飲んでなくてもお前にだけは言われたくない。」
「何故?いつもお前だって言ってるだろ?」
「言ってない。いつも、お前が何をしようが、俺は文句を言わなかった!」

 こうして言い合う内にも、呼び出されたことへの不平やら不満やらがくすぶってきて、言葉尻も次第に上がり始めてしまった。

「言ってただろ。」
「言ってない。お前が俺の犬を殺しかけた時も、」
「二人の犬だろ。」
「俺の犬だ!あとお前が俺の部屋を勝手に荒らした時だって何も言わなかった!」
「二人で借りてるんだから、二人の部屋、だろ?」
「ああもう!!」

 どさ、と近くにあった椅子に座りこめば、目の前には綺麗なしたり顔。何か間違いでも?と言いたげな表情に、俺は今日の今日とて敗北を悟った。

「あー……もう、いい。お前なんか知らない。」
「そういうなよ、俺に孤独死してほしいわけ?」
「お前が?孤独死?っは、そんなやつかよ。」
「失敬な、ウサギのように繊細な心の持ち主だよ、俺は。」
「ウサギに謝れ。」

 呆れて半目で睨むものの、それすらも嬉しそうに受け止められるともうなんといえばいいかわからない。

「会えて本当に嬉しいよ、ローランサン。」

 ふわ、と。それこそ近年稀にみる美しい微笑みを浮かべられれば、もう文句など口から出なくて。
 せめてもの反抗で、俺は相変わらずイヴェールを睨みながら、殊更ゆっくりと口を開いた。

「そうか。俺は会いたくなかったね。」

 イヴェールは一瞬きょとんとしたものの、片手で手紙を見せつけてやれば花が開いたような美しい微笑みを浮かべて。

「……ああ、もう!」

 俺は、両腕を上げるしかなかった。






お粗末さまでした!




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