今回は茶会宿題です!雰囲気探偵と助手ですから、あまり期待はなさらず…雰囲気で読んでください!
イヴェサンっぽいかもですが、どっちでも取れます…。
探偵パロ、というかホームズパロですので、苦手な方はご注意を!











 ローランサンは急いでいた。苛々する気持ちを抑えることも出来ず、みっともなく街中を走っていた。コートがバサバサと揺れ、マフラーが幾度となく外れかけ何度も着けなおす羽目になり、それが一層彼の苛立ちを大きくさせていた。急ぎ足はある一軒の前で漸く止まり、ここでやっとローランサンは多少荒れた息を整えた。手に持った帽子を被りなおし、服装を正してから、どこにでもある普通のドアを二回ノックした。すると一分も経たないうちに夫人が出てきて、そのあまりにも悪い顔色にローランサンの眉間にしわが寄った。

「マドモアゼル、大丈夫ですか?」
「大丈夫なはずないでしょう、最近になって本当にひどいわ。爆発音が毎日のように鳴るのよ!?」
「ああ…すみません。」
「あなたが謝ることではないわよ。それより、どうしてもここを出ていくの?あと少し待ってくれない?」
「すみません、もう決めてしまったので。」
「そう……なら仕方ないわね。とりあえずは、彼をお願いしますね。これ、紅茶。」
「はぁ……。」

 杖を脇に抱え、今度は両手で紅茶とティーカップの乗った盆を抱える。これではまるで女中の真似事をしているようではないか、と深い深いため息を一つ。夫人は非常に申し訳なさそうな表情のまま、ローランサンを家に上げた。

「本当にごめんなさいね。でも私では……」
「ああ、ええ、わかってます。あいつは……我が儘ですからね。」

 苦笑しながらも、ローランサンは案外嫌な気分はしていなかった。頼られるというのは、なんだかんだ言っても嬉しいものだ。相手からの信頼も感じられ、なんだかくすぐったい気持ちになる。
 ある部屋の前で立ち止まり、夫人を「ここで結構ですよ。」と言って本来の居場所に戻した。夫人のお礼を聞き届けた後、もう一度目の前に佇む扉を見た。妙な威圧感を持って佇むそれは、部屋の主にどこか似ていて、ローランサンはぼんやりと「ペットだけでなく、部屋までも持ち主に似るのだなあ」などと考えていた。
 二度ノックをすると、中から返事の代わりに何かの爆発音。ばん、と聊か大きすぎる音に肩を跳ねさせれば、手元で茶器がかちゃんと音を立てて煩わしい。苛々する気持ちをそのままに、ローランサンはドアを開けた。

「……実験室は現在使用中?」
「今終わったところ。もうただの部屋に戻ったよ。」
「へえ、そりゃあ紅茶を飲むには大層よろしいことで。」
「覚えたての皮肉でも使いに来たわけ?まあ座れ。」

 ゴーグルを外し、絶世の美貌を曝したのはイヴェール、私立探偵だ。相当に腕が立ち頭の回転も速いこの男は、しかしどうも性格に難があった。ファーストコンタクトではわからないものの、ずっと付き合っているとそれをありありと見せつけられる。それでもずっと付き合ってきたという奇特な人物こそがローランサンなのだが、今はそんなことどうでもいい。
 椅子を引かれ、紳士然として「どうぞ」などと言われれば断る理由などない。ローランサンは何か納得いかない気持ちを持て余しつつも、なんだかんだで疲れていた足腰をその場に落ち着かせた。イヴェールが目の前の席に座ると、手際よく紅茶を淹れはじめる。ミルクもきちんと温めたものを用意したそれは、紅茶の国に恥じない出来になることを、イヴェールは誰よりも良く知っていた。にや、という笑みを浮かべ、目の前で甲斐甲斐しく紅茶を作るローランサンを眺めた。

「今回はなんて言われたわけ?」
「『爆発音が絶えなくて、とても我慢できないからさっさとくたばれ』ってさ。」
「女性にしてはずいぶんと面白い言葉遣いだな、レディの嗜みにかけているんじゃないか、ローランサン?」
「俺にレディの嗜みを求める?そっちのがずっと面白いと思うけど?」
「……今日のローランサンはキレが良くて、俺は本当にうれしいよ。」
「それはそれは、お褒めに預かり、光栄にございますねえ。」
「それより!」

 ばん、と突然手をテーブルに叩き付けたイヴェール。急に揺れたことによって茶器が耳障りな音を立てる。それに眉を顰めたローランサンを無視し、イヴェールは淹れたてのロイヤルミルクティーに舌鼓を打った。

「うん、流石、ローランサンの数少ない取り柄なだけある。」
「特製のブラックコーヒーも飲んでみないか?俺の数少ない取り柄なんだけど。」
「冗談だよ、多彩多芸なローランサン君。ところでだ。話を何度も逸らされて、俺は大変心外だ。」
「お前が自分で逸らしてんだろ、責任転嫁すんな!」
「まあまあそう喚きなさるな。して、ローランサン。どうして俺の助手をやめるわけ?」
「ま・た・そ・れ・か・!」
「またってなんだよ、俺はお前から納得のいく答えを貰ったことなどない。」
「俺は幾度となく、ひっそりと老後を暮らしたいからって言いましたよねぇ?」
「それじゃあ納得できない。俺が納得するように、ちゃんとしたメリットをあげろ。」

 椅子に座りながら、偉そうに両手両足を組んだイヴェールにローランサンは頭を抱えた。俺にどうしろと、と言えば、助手をやめなきゃいい、と返り。それはいやだ、と言えば、なぜだ、と返される。この堂々巡りにはローランサンも流石に辟易していた。

「あのなぁ。何回言っても俺の決意は変わんねえし、今後何を言われようとここを出てって、適当な家借りて、静かに暮らす。余生を静かに過ごしてなにが悪いんだよ。」
「刺激のない生活にお前が耐えれるはずないだろ。」
「……お前の中の俺ってやつは、一体どんな奴なんだよ。」
「言ってやろうか?」
「結構、他人からの悪口なら聞き飽きたもんで。」

 はあ、と大きなため息をつくと、イヴェールは紅茶を口に含みながら、上目づかいにこちらを見てきた。珍しい表情に片眉を上げて訝しがっている、という顔を見せつければ、イヴェールは美しい動作でカップを置いた。

「誰だ、そんなにお前の悪口を言ったやつは。」
「え。」
「だから、誰だって。そいつをぶっとばす。俺の助手を…友人を馬鹿にするなんて……。」
「イヴェール……。」
「ローランサン、今度お前が、馬鹿だのアホ面だのいつもぼーっとして何考えてるかわからんだの取り柄がないだのがさつだの短気だの言われたら、すぐに俺に言うんだぞ。」
「よし、ちょっとそこに直れ。お前の捻じれ曲がった性根叩き直す。」
「暴力は悪党への第一歩だよ、ローランサン。」

 けらけら笑いながら、紅茶のおかわりを所望するイヴェールに、ローランサンはぼんやりと今日も敗北を予感するばかりだった。
 いつになれば、納得してもらえるのか。それはイヴェールばかりが知る。




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