オフ会直前に前回のお礼です。なんという仕事の遅さ。申し訳ございません…!
以下、サンイヴェにもイヴェサンにも見える盗賊、小学生教師パロです。どちらかというとサンイヴェっぽいので、苦手な方はご注意をば。










 一年生の担任を初めてもってから、早いものでもう一年が経った。春休みに入ってからは、雑務ばかりになって全然顔を見ていないものの、あとしばらく経てば長い休みも終わり、違う顔も交えつつも可愛い教え子に会えると思えば、気分は自然と晴れる。一年経って慣れたと言えば、隣にいるイヴェールの扱いも随分と手慣れたように思える。最初は何しても癇に障ると言われて大変だったものだ。こいつの場合、言葉だけじゃなくて手足まで出てくるのだから、たまったものじゃない。
 長時間同じ体制でいたため、すっかり固まってしまった筋肉を解そうと、ぐっと伸びをする。背骨やら何やらがぽき、ぽきと音を立てて、開放感に沿ってそのまま脱力。はあ、なんてため息まで出てしまったり。

「ん。」

 どん、とあまり可愛らしくない音を立てて置かれたのは、見慣れた黒い相棒、コーヒー。顔を横に動かせば、可愛くない顔をした仕事の相棒。いや、相棒まではいかないかもしんないけど。
 何故かものすごく不機嫌そうにコーヒーを渡された俺は、相手の意図が全く分からず固まるばかり。とりあえず礼を言おうと開いた口は、初めての授業参観のときよりもずっと動きが悪い。

「あ、りがと。」
「ん。」

 俺の心情なんて知らないまま、イヴェールはさっさと隣に腰を下ろしていた。音もなく上品にコーヒーを飲む姿だけじゃ、どこぞのエリートサラリーマンのようにも思える。が、しかしそんな印象も首から上までで、下に視線を逸らせば小学校教師のユニフォームとも呼べるジャージが。黒と青、そして白のラインが入ったそれは俺のよりもちょっと値段が張る。美人にこういう芋臭いのは似合わないとか言ったやつ、誰だ、嘘つきやがって。何の違和感もなくジャージを着こなすこいつには本当に頭が上がらない。
 優雅にブレイクタイムをお楽しみ中のイヴェールとは違って、俺はまだ少し仕事が残ってる。子供の成績の整理やら、新学期に渡さないといけない諸々とか、思い出すと意外と量があってちょっと泣きそうになった。

「イヴェールさ、もう終わったよな?」
「ん。」
「手伝って?」
「……。」

 そう聞いた後、一口コーヒーを含んで、イヴェールはとんでもなく冷たい目でこっちを見てきた。あっ、無理ってことデスカ、ソウデスカ。つーかこいつはさっきから「ん」以外話せないのかよ、ちくしょう仕事終わってて羨ましい。負けじとこちらも半目で睨み返すと、ぴた、と動きが止まったのちに、ものすごく上から目線でふっと嘲笑された。なにあれ、なにあれ超むかつく!

「何なのお前!」
「……。」
「お前がなんだよ、って顔してんじゃねえっつの!つかいい加減話せ!声を出せ!」
「ん。」
「お・ま・え・は〜……!!」
「……ったく、うるさいなぁローランサンは。」
「あああうっぜええ!!」

 なんなんだこの鬱陶しい男は。いや、扱いにくいというか。さっきまではイヴェールの扱いに慣れたつもりだったのに、その自信が一気になくなった。ひどい男だ、本当に。
 そのひどい男はと言えば、俺の様子を完全に無視して手元のプリントを読んでいらっしゃる。若干伏せ目がちな表情は、窓からの夕日も相まっていっそ神々しくすら見えるのに、悲しいかな、性格が如何せん良くなかった。
 まあ、そんな性格が如何せんあれなやつがこうして折角淹れてくれたのだ。コーヒーに罪はない。黒いマドモアゼルに慰めてもらおうと、そっと口をつけた。
 一口含んだ瞬間、戦慄が奔った。え、なに、何が起こったの。頭の中はパニック状態に陥り、目の前のマドモアゼルに再度問いかけた。
 え、なにがあったの?

「あの、イヴェールさん。」
「なんだよ、急に敬語とか。気持ち悪いな。」
「あとで覚えてやがれ。じゃなくて、つかぬ事をお聞きしますが…これ、砂糖って入ってる?」
「ああ、入れたぞ。お前甘党じゃないって言ってたから二本にしといた。」
「二本!!?あのスティックシュガーを二本も!?」
「そうだって言ってるだろ。」
「嘘だろ……」

 そうだった。イヴェールという男は、俺の想像を絶する甘党だった。手に持っているマドモアゼルが急に恐ろしく見えてきた。この小さな体に、彼女はシュガースティック二本分というとんでもない甘さを秘めているのだ。恐ろしい。

「あのですね、イヴェールさん。俺砂糖要らないんだ。」
「……砂糖なしでコーヒーを飲むなんて、正気か?」
「いや、無糖派って結構いるから。イヴェールの方がどっちかっつーと少数派だから。」
「……信じられない。」

 手元のカフェオレを揺らし、イヴェールはかなり動揺していた。いや、俺の方がびっくりなんだけどな。お前、今までずっとそれ信じてきてたのかよ。
 マドモアゼルを俺は一息に飲み干し、自分用に今度は完璧なブラックを注いで戻った。イヴェールは未だに神妙な顔つきで俺を見ていて、なにやらくすぐったい。

「あのさ、そんな顔で見なくても…世の中の結構な数の人が飲めるし……。」
「いや、それはもういいけど…さっきの、よく飲んだな。まずかったろ?」
「まずいっつーか、死ぬほど甘かったけど…まあ、折角イヴェールが注いでくれたわけだし。さんきゅ。」
「……お人よしだなぁ。」
「なんだそれ。」

 けらけらと笑えば、イヴェールも今日初めてまともな笑顔を覗かせて。本当、顔だけは俺の好みなんだけどなぁ、としみじみ思った。

 それが声に出ていたらしく、頭を殴られてコーヒーを盛大に零したのは、また別の話。




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