ホロさんのお誕生日ということで、ちょろっと小話をば!ホロさんいつもかまってくださってありがとうございますー!
ちょっとさんいべっぽいので、イヴェサンしか無理という方はご注意ください。



 朝から、イヴェールの機嫌が悪い。頗る悪い。そのとばっちりをモロに受けながら、俺はパックのカフェオレを飲んでいた。機嫌が悪いってわかっていながらイヴェールと一緒にメシを食ってる俺ってスゴイと思う。誰か褒めてほしいけど、こんなことで褒めてくれる奴なんかいないし、褒められたらそれはそれで複雑だからやっぱりいいや。
 当の機嫌の悪い本人は、女子から大量にもらったチョコレートに舌鼓を打っていた。見てるだけで胸焼けしそうなほどのチョコレートが目の前でみるみる消費されていくのを、テレビを見てるかのようにあくまで他人事として見ていた。いや、そうでもしないと、見てるこっちが胸焼けするんだって。甘くないカフェオレでさえ甘く感じるほどなんだから。
 俺はと言えば、今年は幼馴染や後輩からいくつか貰っただけに留まっている。結構沢山もらってる方だと思ってたけど、誰がどう見ても美形の部類に入るイヴェールは、やっぱりというかなんというか、普段から甘党と言って憚らないのもあると思うけど、それはそれは凄まじい量のチョコレートを貰っていた。世のモテない男に殺されそうだな、とか非現実なことも考えてみた。全てはこの胸焼け感から逃れるため。俺はひたすらどうでもいい考えに逃げることに没頭していた。
 ……とか何とか言って、実をいうと、胸焼けとは違う理由で現実逃避したいのだ。

(イヴェール、チョコくれねえのかな……。)

 そう、一応そっちのお付き合いもしてる仲なんだから、チョコの一つや二つくれてもいいんじゃないか、って思ったりして。でもイヴェールはそんな俺の気持ちなど露知らず、目の前で永遠とチョコをむさぼっているばかりだった。
 ……なんか腹立ってきた。なんであいつはあんなにもらってるくせに不機嫌なわけ?俺にくれないし。しかも八つ当たりまでしてくるし。挙句俺にはチョコくれないし!
 むくむくと、苛立ちの気持ちが膨れ上がってきて、俺はカフェオレを最後まで一気に吸うと早々に席を立った。ゴミ箱へ直進して、そのまま教室を出て行った。なんかイヴェールに呼ばれた気がしたけど、知るか!




 そんなぎくしゃくした雰囲気は、授業が終わって帰る時間になっても続いていた。イヴェールは相変わらず不機嫌だし、今度は俺も不機嫌だから周りの空気といったらもう最悪。凍ってるというか、ピシ、という感じ。どっちも相手を気にしてるけど苛々してるから聞き出せなかった。
 こういう状況になって先に折れるのは、――認めるのは癪だけど、――幾分か大人な対応を知っているイヴェールの方だ。今回も例にもれず、コンビニに寄ろうといって、何か話すきっかけを作ってくれた。
 コンビニで肉まんを二つ買って、二人で適当に公園にやってくる。俺はブランコに腰掛け、イヴェールはその前の柵に座った。
 温かい肉まんは、今年一番の寒波の中だと高級な食べ物のように思える。齧って、少し熱い具の味を噛みしめた。
 イヴェールはさっきの一言以来、まったく口を開かない。「俺はここまで譲歩したんだから今度はローランサンの番」とでも言いたげな態度に、なんだかんだで折れるのもいつもの流れだった。

「あのさ、なんで朝から怒ってんだ?」
「それを言うならローランサンこそ、昼からいきなり機嫌が悪くなったみたいだったけど?」

 あ、やばい今日のイヴェール饒舌だ。結構機嫌悪い方だぞ、これ。俺は寒気からか武者震いからか背筋を震わせた。これは、長期戦になるかもしれない。

「いや、その前にイヴェールが機嫌悪い理由教えてくれよ。」
「なんで俺から話さないといけないわけ?人に聞く前に、先に自分の理由を話すってのが筋じゃないか?」
「悪いけど、俺頭悪いから筋とかわかんねーの。」
「じゃあ、今俺が教えた筋で、話を進めてくれるかな?ん?」

 やばい、これは俺、相当恥ずかしい状態に追いやられている気がする。
 イヴェールのチョコレートが欲しいです。なんて、言うの想像するだけで恥ずかしすぎる。意味わからんとか言われたら俺死ぬ。恥ずか死ぬ。

「……イヴェールから言って、お願い、一生のお願いだから。」
「お前の一生のお願いってやつは、一体一生に何回有効なんだ。」
「イヴェールマジ頼むって…」
「却下。さあ早く言ってもらおうか。」

 当然のことながら、イヴェールとの舌戦に勝てるようなスキルは俺にはない。じわりじわりと逃げ場をなくされ、最後に理詰めにされたら、もう俺の敗北は決定したようなものだ。肉まんの最後の一かけらを口に放り込んで、もう自棄になった。初めからあいつに勝とうなんて思うから悪かったんだ、ダメで元々だ。
 イヴェールの前まで進んで、座ってるイヴェールの目線に合わせるように、腰をかがめた。

「イヴェールからバレンタインチョコもらえねーかなー…とか、思っちゃったりしてー……。」
「え!!?」
「うお!!?なんだよ急に立つなよ!!危ねえな!!」
「あ、悪い。」

 イヴェールはそのまま腰を下ろしたので、俺もさっき座ってたブランコに戻った。さっきまで温かかったそこは、冬の寒さに負けたのか一瞬で最初と同じくらい冷たくなっていた。俺は座るのを諦めて、ブランコの上に立った。

「……なんだ……それだったんだ……。」
「……悪いかよ、イヴェールくれるっていう気配もないし。」
「いや、俺もローランサンのチョコレート待ってたし。」
「ああそう、俺のチョコ……は?」
「あーそういうことか。なるほど、どっちも男だとその辺りがなかなか難儀だな。」

 そう言ってくつくつと笑い始めたイヴェールだが、正直俺はそれどころじゃなかった。さらっとあいつ流したけど、なかなかの爆弾を落としてくれた。

「お前、俺のチョコ待ってたの?それで今朝から機嫌悪かったの?」
「……そうだけど?」
「……っぶ、あはははは、お前、最初からそういえばよかったのに!」
「っ、笑うな馬鹿サン!!」

 なんだ、つまり俺たちはお互いに、お互いのチョコが欲しかっただけか。思ってたよりもずっと下らない――いっそ恥ずかしい――理由で喧嘩していたのだとわかると、なんか笑えた。けらけら笑った俺に、最初こそ頬を染めて怒ったイヴェールだったが、しばらくすると一緒になって笑い始めた。

「あー……俺たち馬鹿じゃね?」
「ローランサンと同類になるのはいやだなぁ。」
「てめ、そんなん言ってたら知らねーぞ?今日は腕によりをかけてさいっこーにうまいチョコ用意するからな。イヴェールも手伝えよ。」
「……ローランサン、顔真っ赤だぞ。」
「うっせ、イヴェールもだっつの」
「俺のは寒いからだよ。……ま、手伝ってあげてもいいけど、半分は俺のな。チョコレートあげたい奴がいるんだ。」
「……へぇ?実は俺もなんだ。利害一致だな。」

 お互いにその相手を知ってるくせに、知らないふりをしたまま話を進める。そろそろ帰るか、と言って歩き出したイヴェールの横に並んで、俺はカバンからメモを取り出した。

「手始めに、色々買い出しに行くからな。次の角曲がってスーパー行く。」
「了解。」
「喜んでくれっかなー」
「出来によるんじゃないか?ちなみに、俺的にはガトー・ショコラがおすすめかな。」
「りょーかい。じゃ、まずはチョコから集めるか。」

 さらっと必要なものをメモして、イヴェールにそれを渡した。それに見えたブラックチョコという単語に、イヴェールは眉間にしわを寄せた。

「……ブラック?」
「お菓子作るときは、他の工程で砂糖とか入れるから、案外ブラックのがうまい。」
「なるほど。」
「甘党の誰かさんのために、今日は多めに砂糖入れるつもりだからなぁ。ブラックじゃないと困るんだよ。」
「いやぁ、その誰かさんはよっぽどローランサンに愛されてるんだな。」
「うっせー」

 けらけらと笑っているイヴェールの頭を小突いたものの、変わらず笑い続けられる。なんだか無性に負けたような気分になって、俺はマフラーの中でぼそりとつぶやいた。

「ぜってーチョコプレイしてやる。」
「させるか」
「いーや、絶対する。今日は俺が上の番だからな。」
「……サイテー。」
「イヴェール案外そういうの好きなくせに」
「うるさい黙れ馬鹿サン。」

 ちら、と隣を窺うと、寒さとは明らかに違う朱が頬にさしていて。

「イヴェール、真っ赤―」
「しね」
「誰かさんのためのガトー・ショコラ作るまでは死ねないっつの」
「ガトー・ショコラ作ってさっさとしね、馬鹿サン」

 今日、絶対チョコプレイする。
 俺はそう固く心に誓って、スーパーの中へと入っていった。









ガトー・ショコラ








ホロさんお誕生日おめでとうございます!とんだ尻切れトンボですが、お誕生日にプレゼントさせていただきます。これからも仲良くしてやってください!




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