こっそり某様へお誕生日お祝い小話を置いていきます。
いつもかまってくださってありがとうございますー!






 マグカップにカルーアと牛乳を70ぐらい。軽くかき混ぜたら出来上がり。
 優しい色がマグカップの中でくるくる回っている様子を見てると、なんだか息子でも持ったような気分だ。そろそろ仕事から帰ってくるであろうイヴェールを労う為に作ったカルーアミルクに思いの外愛着が湧いてしまった。料理している時にも思うが、たかだか皿に並べるだけでも、不思議と自分が関わった料理というものはそれだけで愛着が湧くものだ。現在修行させてもらっている小さなレストランのオーナーシェフの、料理を食べてもらった時の幸せそうな顔を思い出して心が温かくなる。嬉しい時の笑顔は誰のものでも、こちらまで温かくなる力がある。もしかすると、その顔を見たいがためにシェフを目指す気になったといっても過言じゃないかもしれない。なんだか今日はいいことがありそうだ。
 気分の良いまま鼻歌を歌って待っていると、程なくしてイヴェールが帰ってきた。ドアのカギを閉める音の後、ぬっとリビングに出した顔は――俺の想像以上に疲労感に満ちていた。

「……えー、おかえり。」
「ただいま。」
「無事?」
「に見えるとか言ったら殴るぞ。」
「だよなぁ。まあ座れ、今日はちょっと豪華だぞー。」
「……シチューか!」

 コートとスーツの上着をかけ、スラックスとシャツというラフな格好になったイヴェールは、どうやらこの匂いに気づいたらしい。そう、今日はオーナーシェフから特製のブイヨンをもらったから、シチューを作ることに決めたのだ。ちょっと値段の張る美味しい鶏肉を買って、今から三時間前に作り始めたそれは、今やくつくつと美味しそうなにおいを漂わせてキッチンに鎮座していた。いや、美味しいに決まってる、さっきちょっと味見したし。
 ようやく机の上に視線のいったらしいイヴェールは、置かれたカルーアミルクを見て首を傾げた。

「なにこれ、カフェオレ?」
「いや、カルーア。」
「ああ……で、なんで?」
「お疲れであろうイヴェールにプレゼント。明日朝早いって言ってたろ?だからワインはちょっとな。あと高いし。」
「後ろが本音だろ…まぁ、ありがたくいただくよ。」

 カルーアを軽く口に含んだイヴェールは、少し瞠目した。ぱちぱちと瞬きしてカルーアをじっとのぞきこむ様子に、こっちが不安になってきた。なに、俺なんか変なことした?
 もう一度口をつけ、ふぅんと何か得心したらしく、カップの中身を全て飲み干して机に戻した。

「え、なに、なんか変な味したか?」
「いや、ホットのカルーアにびっくりして。」
「あ、そういうことか。」
「飲んだことなかったから、意外だったな。」
「いや、普通にあるって。冬はこっちのが俺好きだし。」
「俺も好きだな。」
「因みに、これはイヴェール用の特別ブレンド。ちょっとミルク多めに入れた。」

 美味かったろ?と聞けば素直に返すあたり、実はかなりお気に入りと見た。今度なんか機嫌取りたいときはこれでいこう、そう決意してから夕食を用意すべく立ち上がった。

「あ、ローランサン。」
「ん?」

 ぱっとイヴェールの方を向いた時、気付いたら目の前いっぱいに綺麗な顔が広がっていて。ふわ、と唇に触れた柔らかいものに意識を全て持っていかれてた。
 ぱち。瞬きを一つして呆然としていたら、イヴェールは堪えきれなかったかのようにくつくつと笑い始めて、机の上のマグカップを持ち上げた。

「どっちも、美味かった。シチューも期待してる。」

 ぱちん、とウインクをされてから、ようやっと動きを再開した体は一瞬で顔に熱を集めた。血液が顔にぐわっと集まるのを自覚して、それがまた一層、恥ずかしい。どうしてこう、美人ってやつは何をしても様になるんだか。憎い、憎いぞイヴェール。
 結局俺は、これ以上からかわれるのが嫌で、夕食を言い訳にしてその場から逃げだした。
 先に言う。断じて、臆病者なわけじゃない!

「シチューは多めによそって欲しいなぁ。」
「うるせえ、お客様は黙っていていただけねーでしょうかねー。」
「お客様に対する口のきき方がなってないぞ、ローランサン。」
「だああああもうお前メシ抜きにすんぞ!!」
「そんなことしたらこの家の家賃払わないからな。」
「すみませんでした。」

 結局白旗を振るしかない俺を見て、イヴェールは大層ご機嫌そうだった。
 今ばっかりはこの美味しそうなシチューが、ちょっと恨めしかった。





カルーア・ミルク
(臆病者と悪戯好き)




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