ついったでお題やったら出た盗賊。今回はイヴェサンで。
サンイヴェでもよかったな…どっちもおいしいね!




 たとえば仕事が予想以上にうまくいった時だとか、たまに物凄くイヴェールの機嫌が良いときがある。そんなときは必ず二人で調子に乗って浴びるようにワインを飲んで、次の日は朝まで潰れる。どっちも記憶が飛ぶようなタイプじゃないから、寝る前に自分が何をしたかをはっきり覚えてて、軽く自己嫌悪に陥ることもあるけど、やっぱり止められない。一人機嫌よく飲むのだってそりゃ好きだけど、機嫌いい奴がもう一人いた方がずっと楽しい。それが、汗水垂らして一緒に働いた相棒なら、尚更だ。
 どどん、と何本ものワインを机に並べる。どれもイヴェールが選んだだけあって、当たり年の、安価ながらも美味いやつばっかりで、思わず顔がにやける。機嫌の悪い時ほど饒舌になるうちの相方は、顔をいい意味で歪めたままずっと無言でそれらを並べ、最後の一本を勢いよく机に置いた。ダンッという音を最後に、しばらくの間部屋の中は無音だった。
「…これに言葉はいらない。さぁ飲め!!」
「さっすがイヴェール様ぁ!素敵ー!」
「悪い、知ってた」
 勢いよく栓を開けてしまえば、あとは香りに誘われるがままワインに口付た。安物のコップでも十分にわかるその香り、味。季節のおかげで、火を焚いている部屋の中でも冷たいそれは、すうっと喉を通り抜けた。その味といったら、もう、最高。
 くいっと一気に飲んで、その味に恍惚のため息をついた。そんな俺の前ではイヴェールが素晴らしい微笑みを浮かべていた。いつもそれくらい愛想がよければいいんだけど、けど今はそんなことどうでもいい。
「さいっこー」
「俺が選んだから、当たり前。」
「うん、知ってた」
 にやにやとあまり良くない顔をしている自信があるものの、もうそれを止められないほど今は機嫌がいいんだ。もう次の日の二日酔いがどうとか、前にやらかした過ちとか全部忘れて、とにかく飲みたかった。それはイヴェールも同じらしく、二人で目を合わせて、一度コップを鳴らしてから、俺たちの夜は始まった。

 どれくらい飲んだだろうか。いつから飲み始めたんだったか。色々な記憶が危うい状態になるまで飲みつくした。
「イっヴェーール!!!」
「あははははは、ははは!!ローランサン、なんだそれ、腹捩れるやめろ、っはははは!!」
「イヴェールマジ笑いすぎ、あはははははっ、ああもう何が面白えのマジウケる、あはははははは」
 何が面白いのかわからないのが面白い、という意味不明な状況の中、俺たちはなぜかわからないが爆笑していた。もう面白くないのに笑ってるイヴェールが面白いのか、面白くないのに笑ってるイヴェールが面白い自分が面白いのか、まったくわからん。正直に言うと、それすらどうでもいいんだ。とにかく面白ければなんでもいい。俺はベッドの上で空のワインボトルを抱えていた。
 イヴェールは言葉通り腹がよじれるほど笑っているらしく、目元に涙を浮かべてテーブルに突っ伏していた。そんなイヴェールが面白くて、以下省略。無限のループだ。
 そんなループを破ったのは意外にも笑い死に寸前で虫の息だったイヴェールだった。
「負けてたまるか!!」
「おおっふ!!?」
 突然飛びかかってきたかと思うと、俺はベッドの上に仰向けに転がされて、視界には低い天井と驚くほど綺麗なイヴェールの顔が映った。星みたいな色の銀が肩から垂れてるのを見るとなんだかいけないことされてるような気分になる。
「あらやだ、イヴェール大胆。」
「……今自分でも思った。」
 大真面目な顔でそう返してきた。だが、その顔がずっと持つはずもなく、数秒で壊れてまた二人で大爆笑。ああ、もう死ぬ、腹痛え。
 一通りおさまったところで、改めて今の体制だ。うん、なんというか、なかなかよろしくない。結構久しぶりだし、正直上に行きたい。あーでもなんか今日超気分良いし、まあどっちでも良いかも。
 ぼんやりそういうことを考えてると、不意にイヴェールがおでこにキスをしてきた。反射的に目を閉じたが、次々降りてくるキスに、自然と気分が盛り上がってくる。頭の隅の方では「乗せられてるぞ!」と訴えてきているが、アルコールがその声を霞ませてしまって、残念ながら俺まで届かない。
「サン、今日は俺が上な。」
「えー…じゃあ次は俺だからな。」
「覚えてたらな。」
 あ、こいつはぐらかしやがった。おい、と口を開こうとしたけど、意外に優しいキスを落とされてしまえば何も言えなくなって。結局、白旗を振る代わりに目を瞑って、もう一度と催促した。
 降ってきた唇は、やっぱりワイン味だった。




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