「はよー!」

 無駄に元気の良い声と共に背中に感じた衝撃。朝メシ代わりの紅茶を噴きかけて、無理矢理我慢したけどまだ若干苦しい。コイツ本当有り得ない馬鹿だろ、そんな思いをありったけ込めながら振り返った先には、やっぱりローランサンがいた。けろっとした顔に非常に腹が立つ。今にも「え?何?なんかあった?」とでも言い出しそうな顔だ。

「え?何?なんかあった?」
「うっわ、本当に言った。」
「は?何がだよ、変な奴だな。……あっ、元々かー。」
「相変わらず幸せそうな頭で何よりですねぇ。」
「……てめ、どういう意味だそれ。」

 ひく、と表情を強張らせるローランサンを見て紅茶を飲み干した。ざまあみろ。
 ズズ、ズズズ。最後の一滴まで使って喉を潤し、空になったカップをごみ箱に投げ入れた。カコン、と当たって上手く中に入ったのが地味に嬉しい。こういう時、自分ってまだまだ若いなぁと思う。箸が転がっても笑う、とは良くいったものだ。
 隣でローランサンがおお、と驚いたような感心したような、バカっぽい声を上げる。そっちを見たら、藍の瞳が子供のように輝いていた。あれだ、五歳児にラジコンカー与えた時みたいな瞳の輝き。仮にも高校生なローランサンを五歳児に例えることが出来るなんて、いっそ呆れを通り越して感動すら覚えた。

「ローランサンは、いつも俺の期待を上回ってくれるよな。」
「その笑顔は俺を馬鹿にしてるときのやつだ。」
「そんなことないよ。本当に凄いと思ってるさ、ある意味。」
「うそつけ。」

 苛々しているローランサンの顔は見ていて楽しい。にや、と此れ見よがしに笑みを浮かべてたら頭を叩かれた。全く、ローランサンは直ぐに暴力に訴えるから駄目なんだ。

「ほら、俺の菓子パンやるよ。」
「これまずいから嫌だ。」
「じゃあ食うな。」
「誰もいらないとは言ってないだろ、寄越せ。」
「えっらそーに。」

 今度はぐりぐりと拳で頭を押された。地味に痛くて頭を左右に振ると、代わりにパンが差し出された。真っ白でふわふわのそれはコンビニの安さにしては地味に美味い。
 ローランサンの行為に甘えて、迷うことなく、思いっきり噛み付いてやった。




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