なんか、あれ、ってなりました←



 夏になると自然と寄り道が増える。じめじめして暑いし、学生にとってはクーラーのある部屋ほど理想的かつ快適な空間は無い。でも、それでも寄り道が増えるのは一概に俺の目の前を揚々と歩いているコイツにある。こんな不快な空気の中元気だなんて、全くもって羨ましい限りである。俺にはとても真似できそうにない。出来たとしても、しないだろうが。
 寄り道の内容は日々コロコロと変わる。昨日はCDショップで中古のそれを買った、一昨日は雑誌を買いに本屋に行った。そして今日は、コンビニである。

「イヴェールは何買う?」
「ダッツ。」
「……それはそれは。」

 ローランサンに微妙な顔をされた。心外である、俺の夏のお供はもっぱらこのビスケットのダッツだと言うのに。少し値段が高いのは、回数を少なくすることでどうにかしてるので、ローランサンにそんな顔をされる覚えは無い。というか、毎日のように食べているローランサンの方が合計したら絶対お高い買い物をしている、はずだ。

「ローランサンは、そんなに食ってよく腹を壊さないな。」
「女じゃあるまいし、生憎そこまで腹は弱くないからな。」
「ふーん。」

 とりとめもない話をしながら会計を済ませる。ローランサンにいっぺんに払ってもらうのは、彼がこのコンビニのカードを持っているから。寄り道、買い物に付き合ってやって、さらにカードのポイント稼ぎにも貢献するなんて、俺はなんて優しいんだろう。心の中で一人ごちてみた。

「よし、行くか。」
「おー。」

 カードをしまって歩き始めたローランサンに続いて歩き出す。コンビニを一歩出るとそこは灼熱地獄だった。アスファルトが太陽光をうけて耐えがたい熱を生む。昨夜降った雨水が蒸発して、まるで蒸されているような感覚すら覚えた。
 ローランサンに続いて歩くこと2分くらい、コンビニのすぐそばにある公園に辿り着く。夕方の公園は意外に人は少ない。この時間になると、遊び疲れた現代っ子たちはクーラーという楽園を求めて家に帰るのだ。うんうん、その気持ちよくわかる。ほぼ無人の公園に入ってすぐくらいにあるブランコに腰掛ける。ベンチがある場所は丁度木の下で、今の時間だとヒグラシがうるさいくらいに鳴くのであまり好ましくない。

「ほらよ。」
「っと、こら、投げるな。」
「俺コントロール良いから平気平気。」
「嘘つけ。」

 ローランサンから受け取った箱をべりべりと開ければ、ひんやりとしたビスケットアイスが現れる。袋に若干ついてるアイスは、ここに来るまでに既に融けたものなのだろうか。恐るべし、夏の熱気。ローランサンは一本100円もしないあの有名なソーダ味のアイスに齧り付いている。じゃりじゃりと器用に食べる様を見ながらひそかに感心していた。俺は、ああいう棒アイスを食べるのがあまり得意ではない。どうしても途中で融けて、運が悪いと制服にぼとりと落ちたり、地面に落ちて虫たちのつかの間の避暑地になったりする。それを隣で見て笑うのは無論ローランサンなのだけど。
 ビスケットを頬張る。アイスの冷たさが口からじんわりと全身に広がり、それが気持ちいい。この感覚が好きだからやっぱりローランサンの寄り道に付き合ってしまうのだ。

「うめー。」
「だな。」
「今日特に暑かったからなー…うおっ、融けた、やば落ちる。」
「落とすなよ、勿体ない。」

 ローランサンを窺うとどうやら本当に困っているらしい。眉を寄せながらしきりにアイスを舐めるが、そんなローランサンを見て笑うようにアイスは刻一刻と姿を変えていく。かく言う僕のビスケットアイスも危ない。半分以上食べきったとはいえ、まだ残っているアイスが融けて僕に襲いかかる。つうう、と垂れてきたそれを舐めつつかじりつつ、少しずつ食べ進めていった。けれど、どんなことにも勿論限界が合って、俺の努力もむなしくアイスは手にまで垂れてきた。ひと思いに、とビスケットを頬張ると、少しだけ頭がキーンとなった。

「美味しいけど、これはいただけないな。」
「なに、頭キーンってなった?」
「まあちょっとだけな。ローランサンは?」
「なってない…あ、またはずれた。」

 これ当たり入ってないんじゃねーの?と言うローランサン笑って返す。そんな安い値段でバンバン当たりが出たら経営破たんだ。ローランサンは納得いかない、という顔をしていたが、ふとこちらを見て動きを止めた。

「手どろどろじゃん。」
「今回はひどかった…。これでも結構善戦したんだ。」

 肩をすくめて見せると、ローランサンはふむ、と一瞬思案した後こちらの手を取る。まさか、と思う暇もなく、俺の指を口内へと誘った。

「ちょ、ローランサン!」
「ばにりゃあうぃふー?」
「そのままでしゃべるな口を放せなにしてるんだよ…!!」

 駄目だ、言いたいことが多すぎてイマイチまとまらない。しかし、俺の放せという気持ちはしっかり伝わったらしく彼にしては珍しく素直に口を離した。

「いーじゃん少しくらい。」
「よくない!何がしたいんだお前は!」

 けらけらと笑うローランサンがウザくて半端ない。うわあああどうしよう今凄くあいつを殴りたい。じとーっとローランサンを睨んでいたが、ふと彼の手の状態に気付く。そうだ、やられただけで黙っている必要は何一つない。俺は遠慮なくそこに指を這わせた。

「っ、え、イヴェールさん?」
「……ほーだあひ、かな。」
「いや、うん確かにそうだけどっ…なんかエロいやめてイヴェールマジごめん調子のったって認めるから!」
「……しょうがねーな。」

 今、凄くいい気分だ。うん、ローランサン相手にウジウジ考えるのは非常に馬鹿馬鹿しい。やられたら、やりかえす。それでいいじゃないか。

「あーすっとした。」
「根性悪ィ…。」
「なんか言ったか?」
「いやー?べっつにー。」

 ふざけた会話を交わしながらの帰り道。さぁ、別れ道まであと10分。




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