学パロです。






 手を挙げてぎゅっと握ってみる。あたかも手の中に収まったように見える綺麗なきらきらは、しかし実際に掴めた試しなんかなくて。それでも思わずやってしまうほど、去年は美しかったのだ。
 そう、去年は。

 現在の空模様。曇り。それもうっすいのじゃない。分厚くて黒くて、今にも雨が降り出しそう。
 今日はとある有名カップルの数少ない逢瀬の日だ。短冊に願いを書けば叶うとかなんとかいう、そう、七夕の日。
 年に一度しか会えなくなってしまった理由は自業自得ではあるが、それほどまでに恋い焦がれている相手に会えないというのは、きっと身を裂かれるように辛いことなんだろう。だからといって同情出来るわけではないが。強いて言うならこうして何も考えずにいられる時間を与えてくれたことに感謝したい。
 隣にいるローランサンは棒アイスを頬張りながら空を見上げている。藍の瞳には、更に深い夜の色が映りこんでいて綺麗だ。
 ふ、と目が合った。しばらくの間お互いに見つめ合っていたが、流石にいたたまれない。とりあえず話題を振ってみた。

「雲ったな。」
「だな。なんも見えない。」
「まぁ、曇った時は二人が仲睦まじくしている、って言い伝えもあるらしいけど。」
「きゃーイヴェールえっちー。」
「ローランサンは馬鹿で気持ち悪いぞー。」

 暫しの沈黙。残念ながらこの沈黙はローランサンが破るしかない。ローランサンは彼にしては珍しく難しい顔をしながら沈黙を継続中。いたたまれないのは俺だけなのか、地味に腹が立った。

「……イヴェール、好き。」
「は?」
「好き、好きだ。イヴェールが大好きだ。」

 頭が沸騰したのか。いよいよ本気で気持ち悪くなってきたローランサンをはいきなり俺に愛の大告白をしてきた。残念ながら、ああそう。の一言で流せるようなスルースキルは、俺に備わっていなかった。

「好き。」
「ちょっと、ローランサン。」
「好き。好き大好き。」
「っ、ローランサン。」

 いい加減に恥ずかしい。頬に熱がたまる。耳まで熱が移動しているのがわかって、本当に恥ずかしい。

「イヴェール、好きだ。」

 これは一種の演出効果だと。例えば、髪を揺らす夜風だとか綺麗な夜空の瞳だとかが俺に影響を与えてるんだ。
 そうでなければ、どうしてローランサンが格好よく見えるんだ。




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