寂しいと感じることはない。昔からのことだから、今更そういうのを感じないのだ。いや、正しくはなかった。過去形だ。英語ならedが付く感じ。
 そう、例えば学校帰りとか。ずっと一緒にいるから、その流れでイヴェールと一緒に帰ることが多い。約束したわけでもないけど、自然とそういうことになった。しばらくそんな毎日が続いていたから、一人で帰っている今の状況が逆に新鮮だ。因みに理由は、あんまり俺が授業受けてないから補習に呼ばれたせい。
 学校から微妙に近い俺は、自宅まで基本的に歩いて帰る。チャリでも良いけど、停める場所に苦労するから余計に面倒だ。
 ふと気付くと、外は大雨。そういえば、雨が降るとかなんとか言ってた気が。

「有り得ねぇ……!」

 そう言っている間にも雨足はどんどん強くなる。ホントに有り得ねぇ。ちっ、と舌打ちを打って全力疾走。傘持ってくりゃ良かった。
 結局俺はずぶ濡れになった。いつもならイヴェールが傘を持ってるからこんなことにならないのに。ふとしたときに、イヴェールに依存している自分に気付く。思わず苦笑が零れたところで、自宅前の濡れ鼠に気付いた。綺麗な銀髪に雫を滴らせる鼠は、俺に気付くと親指でドアを指した。……何、開けろってか?生意気な鼠。

「なにしてんだよ。」
「雨宿り。」
「傘持ってたじゃん。」
「ノエルに渡したんだよ。」

 ああ、なるほどな、このシスコン。イヴェールの家は俺よりもずっと遠くて、とてもじゃないがこの雨の中では帰れない。だから俺の家に雨宿りしに来たということだろう。
 ドアを開け、中へ入る。イヴェールも勝手知ったる俺の家、遠慮無く中へ入っていく。タオルをタンスから出してイヴェールに渡す。一瞬触れた指が冷たくて、思わずだした手を引っ込めた。

「つっめた!」
「あったか!何、走って帰ったのか?」
「そりゃあの雨だし。イヴェールは?」
「ここの近くのコンビニらへんで降られて。大体30分くらい雨宿りさせてもらった。」
「だからか……。」

 手を出して握る。冷たさを中和するように何度も握り直せば、イヴェールはくつくつと笑った。不思議に思って見ると、イヴェールから握り返された。

「あったかいな、ローランサン。」
「子供体温ってか。」
「そうとも言うな。」
「そりゃどーも。」
「冗談だよ。」

 からかわれた。と思った時、頬に柔らかい感触がして。ぱち、と瞬きをした後にはすでにイヴェールの笑顔が。何こいつ、何してんだよ。

「顔が赤いぞ、ローランサン。」
「うるせえ!恥ずかしいことすんな馬鹿やろう!」
「はいはい。」
「なんだよムカつくな!もう帰れ!!」

 ああ、苛々する!イヴェールは笑って俺の言葉を蹴る。風呂借りるぞ、って、俺より先に入るつもりかこいつ!

「お前、ちょっとは遠慮しろよ。」
「俺とローランサンの仲じゃないか。」
「意味わかんねえし。俺も入りたいし。」
「一緒に入るか?」
「絶対ごめんだ。」

 あはは、と笑いながら風呂場へ歩いていくイヴェールを追いながら、俺はタオルを握り締めた。
 結局一緒に風呂に入る羽目になったのは、また別の話。









ちばり様へ盗賊のプレゼント……のつもりです。こんなんで、しかも一日遅れすみません……!
お誕生日おめでとうございます!!ました!!




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