つめたい。


元々高くはなかった彼の体温。
ベッドに横になっている彼の肌を、触ってみると冷たかった。


「N…」


どうして、どうして。



昨日の夕暮れ、私とNは何時もと同じ様にのんびりと過ごしていた。
たわいない会話をして、
次のデートは何処に行くかを決めて。


嗚呼、3日後のデートは、
―――何処に行くんだっけ?
それすら、思い出せないよ、


「また3日後に此処でね、名前。」
「うん、またね。」
そう言って、彼と別れた。

その数十分後、彼は亡くなった。
ポケモンを助けようとして、轢かれたらしい。


馬鹿だね、と呟いた。
でも、彼らしかった。
一番彼らしい死に方だろう。
彼に病死や他殺は似合わない。
そんな彼を、私は愛しているのだ。
これからも、ずっと。


その夜。
空っぽになっていく心を抱えながら、部屋のベッドに横になった。
「N…」
さっきからそれしか呟いていないと思う。
N、えぬ、エヌ。
ふと、彼がみんなには秘密だよ、と言って教えてくれた本当の名前を呟く。
「ナチュラル…」
嗚呼、馬鹿だな私。
まるで依存症だ。


夢をみた。
大好きな彼が出てきた。
「名前、一緒に行こう。」
「N…?」
Nが手を伸ばしてきている。
手を取りたい。
だけど。
「ごめんね、N…」
「どうして?名前」
「あのね、私まだこっちの世界のNとお別れしてないの。まだやらなきゃいけないことがあるの。」
だってまだお通夜もお葬式も終わっていない。
花に埋もれた棺にNを寝かせてあげたい。
でもどうせ私には家族も、ポケモンもいないのだ。
彼だけだったから。
一緒に死んだって構わない。
「だからね、N」





彼が、笑って私の夢から消えた、


3日後のデートの日、幸せそうに笑いながら永久に眠る名前の姿があった。