山姥切国広2 | ナノ
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/人工知能審神者?と山姥切が、少しだけ仲良くなっている。相変わらず好き勝手設定






「―――おい 終わったぞ」


血糊が付着した刀身を振り払い、山姥切国広は懐に隠し持っていたデバイスに声をかけた。
ブゥン という起動音の後に、ご苦労様でした。と無感情のシステムボイスが彼を労う。
小型端末の画面上から青白いレーザー派が浮かび上がり、徐々にそれらはある一定の形を作っていく。一見すると、小型の地球儀。それが、<わたし>と呼ぶ人工知能が、一時的に「自身」として扱うよう山姥切国広に命じた「母体」である。

「さっきの奴らから、また一本回収した。 これだ」

左手で小型端末を持ち、もう一方の手で先ほど出くわした遡行軍から回収した短刀を掲げて見せる。

スキャン成功。粟田口派、粟田口吉光作・前田藤四郎。破損ゼロ。劣化ゼロ。状態良好。ステータスクリア。スキャン終了。
これより本時系列、2.2.0.5ナンバー・オリジナル軸へ送還します。


「母体」から射出されたレーザーが、前田藤四郎本体を"数値"へと書き換え、分解していく。
0と1の形になった前田藤四郎がこの世界線から消え、元の2205年の世界線へと帰っていった。

一体どういう原理で成されていることなのか。目の前でこの光景を幾度となく見送ってきた山姥切国広だったが、未だに理解が及ばずにいた。
元より、理解する気もない。"敵"から刀を回収することが山姥切国広の役目であり、その後のことは「主」であるこの人工知能に一任していれば済む。

己の役目を終えた人工知能はふっと「母体」を消し、小型端末の中に引っ込んでいった。これは人のことが言えた立場ではないが、何とも愛想のない主である。
それでも、この旅を始めた頃に比べれば、戦いの終わったあとにご苦労様と言われるようになっただけ、学習しているのだろう。山姥切国広は、己の主の"機械としてのスペック"についてもよく知らない。なのでこれも、やはりただの憶測に過ぎなかった。

付近に敵の気配がないか探りつつ、山姥切はふぅと一息吐き出してから、また、舗装のされていない山道を歩き出す。まだここに、あと三十五振程度 刀剣の反応が見られるとの、主からのお達しだった。

左手に小型端末を持ったまま、山姥切はぼんやりと思考する。

「主」は、他の刀をこの旅に加えようとしない。いかなる刀を回収しても、それらを全て現代に送り返すだけ。引き入れようとはしなかった。

恐らくだが、顕現させられないのではないかと山姥切国広は考える。

最初に巨大モニターの前で邂逅したときも人工知能は言っていた。自身に審神者――そのようなプログラムや機能やらは搭載されていないのだと。不要なシーケンスは全て削除され、一定のプロトコルから逸脱しない範囲でしか身動きが取れない存在であるらしい。
ならばやはり、"偶然"あの時顕現した自分以外の刀を 顕現出来ないから旅に引き入れないのだろうか。


――何故だろう。今一瞬だけ、気分がひどく高揚した。

感じたことのない思いだ。優越感と言うのだろうか。いや、分からない。おそらく違うはずだ。
しかし、他に比べられる刀が周りにいないと言うのは、とても落ち着く。
……周りにはいなくとも、自分の主であるのは何と言ってもスーパーコンピューターだ。知識として、データとして、様々な刀剣の性能やらを熟知しているんだろう。それこそ、"生みの親"のように。


――山姥切国広

「っ!? ……な、なんだ」

物思いに耽っていたところへ突然、小型端末に「母体」が浮かび上がる。
キュルキュルと空中で回るレーザーで出来た地球から、驚くような言葉が聞こえて来た。


空腹を感じるか 是か、否か

「は、はぁ?……空腹……とは、なんだ?」

この山姥切国広にとって、聴きなれない単語だった。

『空腹』 空虚になった胃の収縮 、いわゆる飢餓収縮によって起こる臓器感覚の一種である。

"スーパーコンピューター"、"人工知能"、"小型端末"などの言葉を主を媒体に知っていても、一般的な人間の用いる言葉の知識として一定の欠如が見られている。
それをデータとして収集した人工知能は 解析完了とだけ言い、困惑したままの山姥切を置いてけぼりにし、また端末内に戻ろうとした。

「ま、待て!あんた、一体今のはなんだったんだ」

アンサー。『刀剣男士』についての見識を深めるべく行った質疑応答である。回答は不明瞭であるが、人間の身体が持つ"感覚"という事象に対しての言語による説明では明確に出来ないため、これより人里に下りて実地検証を試みる

「実地検証? おい、なんだそれ。本当に、ひ、人里に近づくのか?」

アンサー。人里で食事処に寄り、そこで山姥切国広の身体に一定の変化が見られるかどうかを検証する。これは<わたし>のデータ収集のためである。協力されたし

相変わらず物言いは、いっそ不遜とも取れそうなほど形式ばっている。しかし最後の「協力されたし」に、僅かながら声の緩急を感じ取ったような気がしたのは、山姥切の気のせいだったのだろうか。

「きょ、協力って……あ、あんたが言うんなら俺は従うだけだ。……人里に行けばいいんだろっ」

ポジティヴ。山姥切国広、協力に感謝する

ふと、「母体」がゆらりと揺れた。
今の動きはなんだ、と問うより先に、レーザーが端末の上にこの辺り一帯の地図を映し出した。赤く点滅しているビーコンが指し示す地点が、ここから一番最寄の村だと言うことだろう。
ピコン、ピコンと瞬くその光を見ているうちに、腹を括るしかないと覚悟を決める。




「……あんた、本当に分かりづらい奴だよな」

理解不能 <わたし>は単純明快な機械である。心身の複雑化した構造は人間の専売特許であると推断する

「……言い出しといて悪いが、やめるぞ、この話は。この場に人間は一人もいないんだ。そんなことを話し合ったって埒があかない」

了解 歩調を1.3倍ほど早めることを推奨する。夕暮れが近い

「……分かった」