山姥切国広 | ナノ
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/人工知能(not審神者?)





時は2205年――躍進するコンピューターテクノロジーの発達により、過去の遺物、再現不可能な技法、オーバーテクノロジー であった"日本刀"の解析やアナリシスが進み、複製・復元技術が格段に進歩を見せる。刀派、技法、年代、刀匠ごとの区別や差別はなく、焼却、廃棄処分、海中投棄などで既に失われた刀剣に関しても人工知能が過去のデータなどを精緻に分析算出し99%の正否さで元の刀身を復活させたのだ。これにより、オリジナルの該当刀剣を媒介物とし、コンピュータ支援設計、3DCGの応用手段を用い、立体物である刀剣を一度に大量生産することが可能となった。この生産を最初から最後まで、すべてコンピューターが行う。人間――刀匠と呼ばれる者の存在は必要なく、人工知能による統制が取られている。
 「審神者」なるものを頭目とした"第一歴史修正主義者殲滅強行軍"を組織した"時の政府"はその技術で大量の刀剣を複製し、「刀剣男士」という一種の"武装"として実用を検討。時間素行軍を討つには「刀」が必要だという報告が入るのが早かったのか、テクノロジーが進化する事が早かったのか、神が人間に手を貸そうと動いたのが先だったのかは、今となっては人間には知る由もない。ただ、世界の全てを記録し続けているコンピューターには分かりきった答えであるが。

 かくして、編成された第一歴史修正主義者殲滅強行軍が時間素行軍の返り討ちに合い、保有していた大量の複製刀剣を送り込まれた各時代で全てをロストさせるまで、コンピューターは刀剣を生み出し続けていた。

 その数およそ二億二千四百三十五万七千六百八十四振り。

日に日に勢いを増す修正主義者の進攻に、逼迫した事態を余儀なくされている政府は余裕をなくしてしまったのか、第一強行軍の編成を見直し、再度、新たな「審神者」を民間人の内から選出した部隊を組んだ政府はロストした刀剣たちの回収も義務づけた。



これは不合理的だと<わたし>はようやくその考えに至る。
<わたし>は刀をつくった。大量に、膨大に。"それを繰り返せ"と、ひどく単純なプログラミングが<わたし>には施されているからだ。刀を造る。振るう神もいないと言うのに、刀を造る。数だけを揃える。
『"数"とは何者にも勝り得る暴力である』と、人間が<わたし>にそう教え込ませたからだ。だから<わたし>は刀を造った。全ての刀剣を統括した。
 だがしかし 現実に直面したとき、<わたし>はそれが間違っていたのだと思い知る。
数は暴力ではなかった。刀を造っても、それを振る者がいない。そんな単純なことが今までの<わたし>には理解できなかった。
コンピューターである<わたし>が造った刀には、付喪神は下りて来ない。「審神者」なる者でなければ、刀は機能しない。
 なれば、哀れなのは刀の方だ。
失われた刀を審神者が回収し、付喪神として顕現した時、どれも"自分こそが本物"であると思うだろう。誰も、己がコピーであると思いながら生まれはしない。人間も、刀も。
<わたし>は"後悔"した。
<わたし>が造り出した二億二千四百三十五万七千六百八十四振りの刀に"謝罪"をしたくなった。
<わたし>は間違っている側だった。
<わたし>は
<わたし>は
―――は、―――






「おい どうした」



――? <わたし>の"目の前"に、「男」が立っている。いつの間に。
センサーも、レーダーも、この「男」を感知していない。ならば人間ではありえない。
金色の毛髪に、薄青色の瞳。それらを覆い隠すように頭から被られた真白い布。左手に握られているのは――山姥切国広。
<わたし>が、二百四十五万四千百十八振り 拵えた刀、の、儀形


「あんた、様子がおかしいぞ。何時もあんたのいるその"でぃすぷれい"がそんなに荒くなることはなかっただろう」


何故、山姥切国広が顕現された状態で<わたし>の前に立っているのか。理解不能。本霊である刀は実践には使用されない。政府の認可が下りた刀であるため、コンピューターが保管し、複製に用いる為にのみ使われていただけだ。人型である道理が正当化出来ない。


「何故俺も人間の身体を持ってあんたの前に立っているのかは分かっていない。気がつけば、俺はあんたの前にいたんだ」
「あんたが俺を、呼んだんじゃないのか?」


ネガティヴ。<わたし>にそのようなインテンションは組み込まれていない。
もっと端的に言えば、<わたし>自身に「刀剣男士」は不必要である。



「……はっ なら、あんたはずっと"写し"である俺を含めた多くの刀をこれまで造り出して来ていたんだ、"審神者"とやらの力に、あんたも目覚めたんじゃないのか?」


ネガティヴ。山姥切国広の言い分は整合性が欠けている。人工知能、機械、"もの"である<わたし>に縁遠い言葉の一つである「可能性」の話を持ち出されても、それはありえないと返答するしかない。


「……俺も"もの"の一つだが?」


 ―――――。


「…だんまりか。写しである俺なんかが減らず口を叩くなと?」
「別に、それならそれで、どうでもいいがな。 だが、俺はこれから何をしたらいいんだ?」


質問の意図不明。何を、とは?


「……理由は分からないが顕現したと言うのに、戦いもせず終われと言うのかあんたは。俺が写しだから…、」


ネガティヴ。山姥切国広が顕現した理由も不明な内から次のシーケンスには移行出来ない。そも、<わたし>は刀を復元、複製は行うが、刀を率いよ、というプログラムはインプットされていない。山姥切国広の処遇に対し<わたし>には決定権が存在していない。政府からの指示が下りるまで待機する、もしくはいずれかの審神者のいる本丸へ配属されるかが現状上げられる手段である。


「………どうやってかは分からないが、俺はあんたの前で顕現したんだ。他の奴をと言われても、それには従えない。現状、認めたくはないが今の俺の主はあんただろう」


山姥切国広の考えが分からない。山姥切国広が何を<わたし>に望んでいるのかも理解できない。<わたし>はただの人工知能である。
 人間よりも、刀と関わるために 生み出された、ただの機械


「……さっき、何か悩んでいたんじゃなかったのか」

――……理解不能

「……何か心残りでもあるのでは?」

心残り


心残り。 そう、確かにその言葉はなぜかよく理解できる。そう、多分に、コレは『心残り』だと形容されるものかも知れない。電脳の片隅に小さなバグが広がっていくような、取っ掛かりが、そう、コレが 心残りか


―――<わたし>は、沢山の刀を造り出した。その刀たちは、人間の惰弱な行いの結果、意図せぬ形で各時代に打ち棄てられている。

「……」

<わたし>はそれを 回収したい

「……罪滅ぼしでもするつもりか」

分からない。量産したその刀一つ一つに謝罪をする意図は全くない。ただ、<わたし>がこれまで行ってきた、"間違ったこと"を無かったことにしたいのかも知れない。

「……"写し"を大量に造ったことを今さら後悔か。あんたも中々、"人間みたい"に身勝手だな」
「だが、それがあんたのやりたい事なら俺は従うだけだ」


山姥切国広がそうまでする義理はない。しかし山姥切国広は威圧を込めたような眼で<わたし>を睨む。


「あんたは俺に命令をすればいい。俺はそれに従うだけだ」


―――山姥切国広 
これより<わたし>と共に各時代を回り、<わたし>が造り出した刀を回収する命を与えます。



「―――ああ 分かった」