大和守安定 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



つくづく僕には運が無いのだと思い知った。


「主の具合はどうですか、石切丸さん、一期さん」
「捗捗しくないね…」
「先程ようやく眠りに就かれたところです」


主がさっきまで眠れなかった理由は分かっている。主ラブ勢かっこわらいかっことじ、へし切長谷部、小狐丸、そして加州清光が臥せっている主の枕元でずっと「主、大丈夫ですか!?」「どっか痛いところとか、苦しいとこない!?」「あああぬしさま、お労しい…!」と煩くしていたからだ。三人に悪意は無かったとしても、存分に迷惑を被ったことは推して知るべし、僕だって主が風邪をこじらせてしまったと聞いた時には心の臓が冷えたけど、上記三名の慌てた様子を見ているうちに冷静になれた。今その三名は駆けつけた石切丸さんからこっ酷いお叱りを受けて別室待機。と言っても主の私室からそう遠く離れてない部屋にいてこちらの会話に聞き耳を立てているんだろう。何か用向きを与えてやれば良さそうなものだけど、それは僕が言うことじゃない。結局は僕だって、この部屋の主からしてみれば立派なお邪魔虫なのだから。


「一先ずこのまま部屋の火は絶やすことなく、発汗すれば拭ってあげて、様子を看るしかないね」
「…病魔は斬ってくれました?」
「ああ、勿論。まあ、気休めのようなものだけれどね」


そう謙遜した石切丸さんは近侍である一期さんを「火は、大丈夫かい?」と心配している。
「ご安心を。これはただの"火"ではなく、主の"暖"となるものですので」
そう言って笑う一期さんを見て安心したようで、では私はこれで。また何かあったら呼んでくれ、と言い残して退室した。廊下の方で何やら騒がしい。別室待機していた組が石切丸さんの後を追ったんだろう。さて、僕は…。


「大和守殿、時間があるのでしたら、このまま主のお傍へおってはくれませぬか」

火鉢に炭を足し、掛け布団と毛布を主の首元までたくし上げてやりながら、一期さんが穏やかに問いかけてきた。

「え……? そりゃ別にいいけど、どうして?」
「主はお眠りになられる直前、大和守殿に謝罪しておりました。『今日、共に万屋へ行くと言った約束を破ってしまってすまない』と」


 ――覚えてて、くれたのか。
主と三日前に交わした約束だった。襟巻きがボロくなってきたから、これからの冬に備えてもう少し温かい襟巻きを買ってやろうと言ってくれたのだ。

「直接謝れなかったことを悔やんでいる様子でした。なので主が目覚められたときに大和守殿が近くにいれば、主の面目も晴らし易いのでは、と」

約束を催促、糾弾するつもりで来たわけじゃないけれど、その言葉を聞いてすっと心が軽くなる。
「…じゃあもう少し、主の寝顔でも見てようかな」 命に別状はない寝顔なら、ずっと見ていられるし。


「ええ、是非そうしてください」 近侍からの了承も得たので、畳みに座り込む。

顔色は悪い、咳や痰が喉に絡んでいるのか呼吸はし辛そうで、寒さで震えているのに額には汗が滲んでいて、傍らで見ている分にはハラハラドキドキして落ち着きはしないけど、

それでもこの人は、沖田君じゃないと 分かっている。

きっと明日には元気になってくれているだろうし、目覚めたら改めて謝罪してくれて、約束の取り直しをしてくれるはず。
そうなれば良いな、という僕の願望を 残さず叶えてくれるんだろう。


「だから…早く良くなってよ、主」


僕はちゃんと、いい子にして待っているから。