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▼ 好きだったのは僕だけじゃない




夜までかかってモビーディックの改修を終えたナマエが上がってきたところを見計らい、ナマエもどうだと酒盛りに誘った。他の者達は数刻前からおっ始めている



「ナマエ 今夜は一緒に飲もう」
「……………あぁ」



長考の末にナマエが頷いてくれて良かった。でないと手に持った酒瓶二つが無駄になる
多分ナマエもそれを思って気遣ってくれたのかもしれない。しかし思慕に悩み期待するこの心は、ナマエのそんな隠された優しさに胸をときめかす。まるで少女のように







わいわいがやがやどんちゃん
背後から聞こえる騒音に背を向けて、黙々と月見酒を嗜むナマエの横顔にウットリ
全然減らないマルコの酒瓶を怪訝に思ったナマエからの催促がなければ、マルコはいつまでも見入っていたかもしれない



暫く黙って酒を傾けていたナマエが、おもむろにマルコを見る
ナマエの方から目を合わせられたことが少なかったせいで、マルコは引き攣った声を出した




「…………………マルコは」
「んあ?」
「よくオレを見ているが、」
「…!」
「なんだ」
「えっ」



なんだ。
2回も言わなくてもちゃんと聞こえてるよいナマエ
今えって言ったのは聞き返したんじゃあなくてその、



「そ…そんなにおれ、お前を見てたかよい」
「ああ。何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「い、いや、そんなんじゃなくて…」



じっとマルコを見つめるナマエの目は真っ直ぐだ。何の邪念も映されていない。純粋な疑問を投げかけているようだ。しかしマルコはうろたえる。まさか本人に気付かれていただなんて。この男は鈍いところがあるからよもや本人には伝わりまいと油断していたのが悪かったのだろうか



「……………マルコはよく隠す」
「……何を?」
「たとえば…そうだな……」
「……っ」
「赤い顔、とか?」
「!!」



ほらまただ。ハハ

……! ナマエが、わらった。なんだ、きょうはめずらしいことばかり起こる



「…作業の途中に、お前を見るのは、中々面白い」
「お、面白いってあのな…!」
「……ずっとオレに視線を寄越すくせに、オレが寄越せば拒否するのも愉快だ」
「も、やめてくれい…!」



ああバレていたバレていた気付かれていた
誰だナマエを鈍感だと決め付けたのは。おれだ。ナマエは知っていたんだ。おれは知られていたんだ



「…オレの仕事を、手伝いたくてずっと見ているワケでは、ないんだろう?」
「あ、当たり前だ!あれは……」
「…………」
「あ、あれは……!」
「……ふ、」
「――っ!」



ぐいっと右腕を掴まれて引き寄せられた
密着されたナマエの厚い胸板にぎゅっと押し付けられる。だきしめられていた



「ナマエ…!な、なんのつもりだよい!」
「……酒の力を借りるのは好まないのだが、たまには役に立つ」
「…え、え?」
「平素ではマルコを抱きしめられない。存外温かいなお前は」
「!」



カッと顔が赤くなったのが分かった。マルコの顔を覗き込んできたナマエの目と目が合って、またナマエが笑った




「……やっと、真正面から見れた」
「ば…バカ野郎…!こんなの、セクハラだ!」
「…そうか、こうされるのは厭か」
「誰がイヤっつったよい!もっとキツく抱け!」
「……態度が一変したな」
「うるせぇ!これは多分おれの夢だ!あの朴念仁のナマエがこんなに喋るのも、こんな風にだ、抱きしめてくるのも!全部おれの欲望の詰まった夢だ!だから今のうちに甘えておくんだ文句あるかよい!」
「…………夢ではないのだが、まあいい」



薄々きづいてるけど、どうにもこれはおれの理想を描いた夢のようには思えない、現実のような気がする
だからこれは明日の朝目が覚めた時、ナマエがまだ隣にいてくれていたら、信じることにする





▼短編@染まる僕、染める君 続編/楓さん
リクエストありがとうございました!


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