恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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シャボンディで改めて砲弾の補充と、コーティングして貰いがてら船の整備をするとして、
トリトは船体の確認と出発の準備を進めながら目の違和感に悩まされていた。視力が良くなったと表現したが、少し"良すぎる"かもしれない。細部や遠くをより見通せるようになって目に疲れを感じやすくなった。眉間を揉んで柔らかくしてみるがあまり効果はない。どんな能力なのかが判明していない今、この体に顕著になって現れている副作用のような状態にトリトは参っている



「……慣れるしかないのだろうか」
「それか、特殊な眼鏡を作ってもらうとか!」
「眼鏡か…老眼鏡とかかな」
「いや、そこは老若関係ない感じの眼鏡でもいいんじゃ」



一緒に点検していたバンダナの提案にトリトはうーんと頭を悩ませた。
ともかく、また一度ローに相談してみよう。船内放送から出航の合図が聞こえて来た。
重い音を立てながら、潜水艦が島を離れる音がする。少しの浮遊感と衝撃があって、船は海中へと潜っていった。今度は海獣の群れと遭遇しませんように…と祈るバンダナの声に、トリトはそうだなと同意を示す。
何事もなければこのままシャボンディまで一直線、だと航海士に聞いた
マングローブの集まりだと聞いたが、一体どう言うことなのだろう。
こっちの世界に来てから新鮮さと驚きさの連続だったが、きっとまだまだトリトの理解の範疇にないことがある筈だ
年甲斐もなく、それに対して「楽しい」とさえ思ってしまう




「……存外楽しんでるな、俺も」




そんな有意義なご身分でも、ないのだがね






「…………」
「 トリト」
「ん? ああ、どうしたんだ?」
「別に。手が空いたから、顔を見に来ただけだ」



床に転がされている砲台の一つに腰掛けたローは、足を組み頬杖をついてトリトの姿を見る体勢に入った。見られていると緊張するな?と声をかければ、そんなことで緊張するような年でもないだろと返される




「シャボンディまでは後どのくらいなんだ?」
「二日三日ってとこだな。…あぁ、後バンダナから聞いた。眼鏡が欲しいんだって?」
「眼鏡が欲しいと言うか、目の疲れを癒したい」
「目薬出すか?」
「あるのか…」



















波打ち際で足を止めなかった人間がいた
水に濡れる事も厭わず、引き返す事も望まずに
ただ 青い世界を追いかけるあの子が、
彼には眩しかったのかもしれない


 。


深海は まだ遠い







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