恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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グルル…だの、ガルルウ…だの、ウオオオーンだの、多種多様な獣の鳴き声が聞こえてくる。火を恐れ船に近寄って来ないところを見ると、えげつない見た目をしていても動物なのだと実感する。

隣に座るローの右手に替えの包帯を巻いてやりながら、やはり実感があるのは良いことだと思う。力を入れなくても包帯が持てるのも、こうしてローに簡単に触ることが出来るのも素晴らしい。時間にしてみれば短い間だったが、やっぱり体はぼんやりしているよりも くっきりしている方がマシだ



「出来た」
「…さんきゅ」



寝る前に外で話をしよう。誘ったのはトリトからで、ローの手当てを申し出たのもトリトだった。何でも体が元に戻ったから色んなことをやりたいのだと言う。人間、色んな体験をしてみれば色んなモノを有り難く思うようになるとは正にこの事か



「一時はどうなるかと思ったが、トリトが消えなくて本当に良かった」
「本当にな…俺もようやく実感出来てきているよ」
「能力の方も、まあその内イヤでも実感してくるはずだ。焦んなくてもいい」
「視力が良くなったり、視界が広く感じるのは実の影響かな?」
「十中八九そうだろうな ……言っておくがなトリト これからの自分は"溺れる"ってことを念頭に置いとくんだぜ」
「ああ…『海に嫌われる』と言う奴か 海以外でも駄目になってしまうんだったか?」
「水関係は全部駄目だ。コレにだけ気をつけてさえいりゃあイイ」
「確か、昔にローを風呂に入れた時もえらくぐったりしていたな…」
「……そう言うことは思い出さなくてもいいんだ」



きゅっと鼻を摘ままれる。 睨まれつつも、昔風呂に一緒に入った時の力を出せずぼんやりしていたローの姿を思い出してトリトはハハハと笑った。…少しオヤジ臭かったか。反省しよう




「……とにかく、今日は寝ろ 色々あって疲れたんじゃないのか?"おっさん"」
「………否定出来ないなぁ。 もう、俺は寝ていいのかな?ロー」
「…どう言う意味だよ」
「いや、 …なんでもない」




"もう寝ると言えば、ローが寂しがると思って"
と、言いかけて、トリトはグッと言葉に詰まった。



本当にそうか? 寂しがるのは、ローの方か? 寂しいと不安がるのは、本当に目の前のこの子だけか?




「……違うよな」
「?何が」



寂しがっているのは、どう考えても 自分の方だ
すぐに会いにいかなければ なんて言って、会いたかったのはお前じゃないかトリト
あのまま靄に飲み込まれれば、もしかすれば元の世界に帰れたかもしれない そのチャンスを"ローの為に"と決め込んで引き返したくせに、 それは"自分の為"でしかなかった  くせに




「………………」
「――うおっ!?」



強かに顎を甲板に打ちつけた。久しぶりの感覚だ



「…なぜバラバラにするんだ、ロー」
「何となくだ。おれを無視するとはイイ度胸だなトリト」
「無視したワケじゃあないさ 少し考え事をしていただけで」
「優先順位を間違えんなよ? おれのことを真っ先に考えて行動しろ」
「………、…」
「トリト?」



俺の首を持ち上げたローと顔が近い




…おや?

おかしいぞ


ローは、 こんなに 可愛らしかっただろうか?





「………ロー 俺の体をくっつけてくれないかな」
「?」



首を体に取り付けられて、戻った体に繋がった自分の腕をローの背中に回して力強く抱きしめる



「!? トリト?なに、」
「…何だろうな、ロー 今、とても」





 ――お前を抱きたいと思っているんだ





自分が消えなかったと言う事実がこんなにも嬉しい。戻りたいと強く願ったことはなかったが、それでも心のどこかでもしかすればと思っていた事に対し自分が断固として否定したことによって、未だこうしてローのいる世界にいられることが、たまらなく嬉しく思えている。
"不安定な存在"
それは悪魔の実を食してからも、きっと変わらない事実
だがそれでもこの腕の中に、この子がいてくれることは、間違いなく自分自身の幸せの筈だ





自分が伝えた意味は違わずローに通じただろうか?
不安になって腕の中のローの様子を窺ってみる。だが、その不安は杞憂だった


胸に押し付けられて見えない顔よりも、髪の隙間から見えている耳は真っ赤だ
ぎゅう、とシャツを握り締める背中に回った手も、
「……トリト…」と熱っぽく名前を呟かれ、俺の「…いいか?」の言葉の返事にコクンと頷かれた頭を掻き抱く
恥ずかしい、なんて気分になってしまうのは、何時ぶりだろうな



「…………何ヶ月、」
「ん…?」

「何ヶ月、おれが我慢したと思ってる……」
「……それに関しては、俺も謝らないといけないな」
「ほんとだよ…ったく、」



ローの細い体を横抱きにして颯爽と部屋に……なんて格好いいことは俺のような老体には出来ないから、


「……手を繋いで部屋まで行くか?」
「――っ!ば、ばかトリト…!」



赤く震えているローの右手と自分の左手を絡み合わせて、


ああ、ローの船室へは、こんなに時間の掛かる道のりだったかな、





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