恋情増幅 | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



島の動物たちが船に近寄らないようにと作られた篝火を見張り台から見下ろしながら、トリトは隣に立っている"トリトの見張り役"のジェントルに声を掛ける。


「原始的な島ですね」
「そうですなぁ…トリト殿達を襲った火と油を吐く鳥も珍しいですが、我々のグループが遭遇したのは何と体を液状に溶かすことの出来るライオンがいましてな」
「体を液状に…!?なんて不思議な…」
「どうやらこの島には他にも面妖な動物がいるようだ。くれぐれもお一人で行動してはいけませんぞ、トリト殿」
「重々肝に銘じておきましょう」



今は体が透けているから、危害は加えられなさそうだが

「今夜の食事の用意をしているようですな」船の甲板を見下ろしたジェントルに釣られて見てみると、昼に調達してきた果物や獣の肉や魚やらが順々にキッチンへ運ばれては料理となって出てくる。今夜は月が出ている綺麗な夜だから、どうやら甲板で宴を開くらしい。航海中はずっと室内での食事だったから、たまの外での食事は気分も清清しくなるだろう。「なかなか変わったフルーツや魚がありますね」「生態系も様々な生き物ばかりですしな。味の方はコックが絶賛していましたぞ」「そうですか」食物を摂れることは可能だとさっき立証済みだ。あんなに固唾を呑まれながら肉を頬張ったことはない



「参りましょうかトリト殿」
「ええ」



キャプテンもこっちを見上げていることだしな










「体に異常はないか?」
「ないな」
「よし」



一時間に一度訊かれるローの質問に「ない」と答えると今度は酒を見せられる。
「さっき肉は食えたが、飲料は可能なのかは試してない。飲んでみろ」酒のコルクを開けてくれたローからボトルを少し力を入れて受け取り、口元に運ぶ。
確かに液体が口から喉を通って体内を流れ落ちて行く感覚がした。「飲める」と言えば、ローはほっと息を吐いた。「何だ、案外大丈夫そうじゃねぇか」




コックが腕によりをかけて作った料理が揃いきり、クルーも全員集まって大宴会が始まった。盛り上がるような出来事があったわけじゃないが、酒があって料理があって月があるだけで問題ないらしい。楽しそうに酒を飲んでワイワイ話に華を咲かせている面々の姿を見ながら、トリトも脇で四苦八苦しながら魚のムニエルを口に運んでいた。気遣ってくれるペンギンやシャチ達がトリトの為に料理を取って来てくれるので、座ってそれを待っているだけでいいのは楽チンだ。
宴の輪の中心にいるローとしばしば目が合いながら、トリトは自分の体の薄っぽさを少し頭の外から追いやって楽しい宴を眺めている



肉や魚のメイン料理が粗方片付くと、厨房からコックが疲れた顔で出てきた。お疲れ様、と声をかければ「おートリトか」と言い肩を鳴らして隣にやって来る



「ちゃんと食ったか?体がぼんやりしてるからって飯を抜くようじゃタダじゃおかねぇからな」
「何とか食べたよ。でもやはり少し疲れるね…」
「今日獲れた肉は味はいいんだが、少々歯ごたえがあったからなぁ…トリトには大変だったか」



おおそうだ、ならちっと待ってろ!
そう言うとコックはまた厨房へと戻って行った。

大人しく待っていると、コックは皿を一つ持って帰って来る



「アイツ等には後で出そうと思ってるデザートなんだが、お前さんの分は今渡しておいてやらぁ」
「美味そうだな!」
「島の木に鈴なりに成ってたフルーツでな。とりあえず切り分けて砂糖で煮込んでみたんだ!」
「食べていいのか?」
「おおいいぞ!……あぁ、味見するのを忘れてたな」
「こんなに美味しそうなんだから大丈夫だろう。ありがとう、コック」
「そうか?まあ匂いからすると大丈夫だとは思うが、不味かったらすぐに吐き出せよ!」



赤い皮にオレンジ色をした瑞々しい果肉が砂糖が掛かってキラキラしていて、見るからに美味しそうではないか。有り難く食べさせて貰おう。

コックが皿と一緒に渡してくれたフォークをギュっと握り締めながら、一つ口に運んだ。
ゆっくり咀嚼する。 …少し苦いだろうか? ゴクンと飲み込むと、一気に苦い味が口中に広がってきた。「………!?」 まずい




「ゲホッ!!」
「お、おいトリト!?どうしたんでぇ!」
「い、いや、ゲホゴホッ!うあ゛…っ」
「毒か!?おい吐き出せトリト!」



無理だもう飲み込んでしまった。
ガシャン!と皿を落とし残りを甲板にブチまけてしまう。「トリト!!」とローの声が聞こえては来るが、あまりの不味さとえぐみによって返事も出来ず涙も出てきた。今まで食べたこともないような不味さだ。この味は例えようがない。胃と頭がグルグル回って、



「だい、大丈夫だ、げほっ」
「……、………」


「お……おい、トリト…」
「…?」


「トリト…、身体が……」
「からだ…?」



呆然と手を伸ばしてきたローが腕に触れてきた。あれ?と自分の体を見てみれば、色素が元に戻っている。
しっかりと立っている感触がして、視界も明瞭だ



「…………まさか、今食べた果物が……」
「悪魔の実だったってことか…!?」



二秒後 事態をようやく飲み込めたクルーとコック達から「えええええええええ!?」と言う大きな大きな驚声が上がった





prev next