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「#幼馴染」のBL小説を読む
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船へと戻る道すがら、トリトが記憶を飛ばしている数分の間に起きた出来事についてはペンギンが教えてくれた。



赤い鳥の炎がローを襲い、トリトの声が聞こえたと思えば、その身体が消えて行く。
手に火傷を負ったことよりも其方へと意識を持って行かれたローがトリトの名を叫び、ペンギンが慌てて携帯していた水筒の水をローの腕に振り掛けながらトリトの方へ視線を向ける。
シャチは一人、そのまま道を走り抜け仲間に救援を求めに行く。
上半身までもが消えかかりそうになっていた時、ローは一際大きな声でトリトの名前を叫んだ。
すれば、消失が止まったのだと言う。
シャチが呼んだ仲間たちの助けにより火の鳥は撃退し、先ほどの状況に至ったということらしい




程なくして、一行はハートの船へと戻ってきた。
しかしやはり、トリトも、ペンギンも、クルー達も、
全てを上手く理解出来ずにいるのは間違いない


その中で一人、ローだけが顔を顰めていた











「トリトがいたアッチの世界からおれが持って来たあのネクタイが燃えたことによって、トリトのコッチの世界での存在が危うくなったんじゃねぇか、とおれは考える」
「……はは、何故だろうな。ありえない!…と、笑い飛ばせない」
「突拍子もないことだと思うか?――だがおれは間違いないと思ってる」



それに、"消える"ことに関してはおれの方が先輩だ。とローは皮肉的に笑った
トリトのこととは言え、他者のことであれば存外冷静に考えられる。
現にトリトはまだ消えていない。まだ、ローの前から完全に消えてはいない



「おれの時は"止まらなかった" なのにトリトは"止まった" これは奇跡か?それともチャンスか?」
「俺の今のこの状態こそが奇跡だな…チャンス、とは?」
「どうにかすれば、トリトの身体がまた元通りになる、って考えるおれの頭はハッピーだって笑うか?トリト」
「…いや、やはり笑えない。 出来れば、元に戻りたいよ」
「……後悔とか、してねぇよな?」
「後悔?」
「あのまま消えてりゃ…アッチの世界に帰れたんじゃないか、とか…」
「思わない」
「…即答が嬉しい、ってか?」



靄のかかった空間で帰ることよりも、名前を叫ぶローの方へ意識が行ったのだから今さらだ


しかしローの仮定が正しければ、やはり前途多難であるように思う。
"トリト"をコッチの世界で"トリト"たらしめる要素となっていたトリトのネクタイが無くなってしまった今、コッチの世界でまたそれを位置づける為の物品はもうない



「どうすればいいんだろうな…… このままじゃ、俺はずっと立ちっぱなしでいることになる」


トリトが笑顔で軽口を叩けば、釣られてローは笑った。


「…1つ、考えがあるんだ」
「…ローは賢いな。一体この短時間でどれ程頭を使ったんだか」
「こんなにフルスロットルさせたのは初めてだ。褒めろ」
「ようしよし」


薄いトリトの掌がそっとローの頭の上を撫でた。感触としてはイマイチだったかもしれない。それでもローは満足したようだ

いいか、と前置きを置いて切り出した




「トリト ――"悪魔の実"を食べてみないか」


「……悪魔の実を?」








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