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「#幼馴染」のBL小説を読む
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白い靄が視界を覆っている。

瞬きをしてみるが、
手で拭ってみるが、
目の前のソレは消えてくれず途方に暮れる。


だが俺は名前を呼ばれている。
すぐに返事をして、すぐに会いに行かなければいけない声だ。
小さいあの子は泣き虫だ。泣かないくせに泣き虫で、泣いているのに泣いてないと言い張る子で、大きく育ってもやはり放っておけない。



おれは あの子に会いに行かなくてはいけない












トリトトリト



自分の名前がターニングであったかのように、靄は晴れて視界が一気に開ける

妙な感覚を下半身に感じながら、目の前で泣き崩れていたそれぞれに目を向けた



「…ロー 俺は、一体……」
「トリト…!おま…えっ…!ば、かだ、ろ!なに、そんっ、うえっ、げほ!消え、ごふっ!」


涙と嗚咽のせいで上手く喋られないローに、トリトは困った。珍しく泣いているローもそうだが、現在がどう言う状況なのかが分からない。なぜか数分前の記憶が曖昧になっているのだ。それと共に、なぜかローを抱きしめられなくなっている。なぜだ



「…トリト、さん?平気、なんですか」
「……?何がだろうか? それに、一体何があったんだ?確か、火を吐いてくる鳥がいて…」


同じく妙に神妙な顔つきのペンギンが、スッと手を持ち上げて指し示した先には、首と胴体を切り離し地面に落ちている赤い鳥たち
改めて自分の周りを見渡してみれば、そこには分かれて島を捜索していたハートの面々が集まっていた。



「……なに、が…」
「おれらも訊きたいですよ… トリトさん 体が、透けちゃってるのに何ともないんですか…!?」
「…!」


震える声のシャチの言葉に釣られて自分の姿を見てみれば、消えていた
腰から下が丸々透明になっている。そして腰から上、頭の先にかけてトリトの体はほぼ消えかかっていた。ほぼ、と言うのは未だ目視が可能な状態であること。ローの肩に触れられなかったから、触感も失せてしまっている



「……どうして、んな事になってんだよトリト」
目元を強く擦って、近寄って来たローの言葉に当惑する
「何故なのだろうか…… 鳥から逃げていただけで、こんな事になる理由が…」
トリトは一度、"妙な空間"にいた筈だ。白い靄が掛かっていて、周りに何もない空間。そこでローの言葉が聞こえてきて、引き返さなければそのまま"何処かへ連れて行かれたかもしれない"あの状況

色々と説明が付けられずにいる中で、トリトはふとローの右手首を見た



「……ロー、その手首に張り付いている黒いモノはなんだ?」
「くろ…? あ…、あの時に焼け焦げたネクタイの…燃え滓」


ローの手首に張り付いていた黒は赤い鳥に燃やされたネクタイらしかった。
少し前まで、ローの手首にしっかりと巻きついていたあのネクタイは全て燃えてしまったらしく、代わりにそこへ赤黒い火傷の痕を残している

そう言えば、そのネクタイが火に焼かれた時から違和感が襲ってきたのではなかったか?



「このネクタイが燃えたから、トリトの姿がんなことになってるだと…?」
「いや…だがタイミング的には丁度ぐらいだったじゃないか?ペンギン君」
「あ…そう、ですね 確かに、キャプテンが腕を前に出してからトリトさんの姿が消えて」
「…どう言う事だ? コレはアッチの世界でトリトが持ってたものだろ。そんな特別なモンじゃ、ない筈だよ…な………」

そこまで言って、ローは手に握っていた残滓を見た。

「………なあオイトリト」
「何だ?」
「お前、自分の身にそんな事が起きる前兆とか、今まで一回もなかったのか」

睨みつけ、詰問口調で問い詰めるローに、トリトは黙っていたことを白状する

「…実は数日前に一度、点検周りをしていた時に手が消えかかったことがあった」
「あったんじゃねぇか………なんで、言わなかったんだよ…」
「……ローに要らない不安を与えてしまうんじゃないかと思った」
「はっ… それで教えて貰えなくて、今こんなテンパっちまうんだったら事前に聞かされていた方が、幾らか気楽だったな」

すまない、と謝れば、過ぎたことだ、と許された
それよりもローは、何かを考え気付いたようだ

「………おれの愛が篭ってるだけで、特別なモンじゃない、って思ってたのが間違いだったのかもしれねぇな」
「…?」
「とにかく、一度船に戻る。また襲われちゃ敵わない」


立ち上がったローは一度トリトの薄ぼんやりした身体を見つめ、何かを確かめるかのようにその胸へと手を伸ばした。
少し押し返すような、目に見えない力が働いたかと思うと、ローの手はそのままトリトの胸を貫通して行った。





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