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トリト、ロー、シャチ、ペンギンの四人で一先ず暫く歩いてみたが、想像していたような恐ろしい動物とは出くわさなかった。食人花のような植物や、異臭を漂わす花なんかは其処彼処に生えているが、
一口で人間を丸呑みにしてしまうような虎も、獲物に食らいつき逃がさない獰猛なハイエナも、ライオンも、ゴリラも、ええとなんだ、ええ、その他恐ろしいと思う動物は一切姿を見なかった。



「…なん、かさ」
「ああ…拍子、抜け?」
「変だな…こんなに鳴き声は聞こえて来ると言うのに…」
「……」



ケェーケェーだの、クァーだの、ギエーだのと言う鳴き声は四方八方から聞こえて来るのに姿は見えないなんて余計に恐ろしい状況だ。

シャチとペンギンはすっかり緊張の糸を切られてしまったようだし、トリトも変だと思いつつも幾分肩の力を抜いてしまっている。
ローは、三人には言っていないが少し眩暈がしていた。日頃の栄養失調と睡眠不足が余計に拍車を掛けて祟っているのかもしれない。霞む目を何とか開きながら辺りを注視していたが、これはやはり戻って休まないとトリト達に迷惑がかかるか、と今になって考えを改めた



「トリト、」ここらで一度引き返すぞ、



そう言いかけたローの言葉を妨害したのは、上空から聞こえて来た劈き声だった



「な、なんだぁ!?」
「! と、鳥が物凄いスピードで落ち…!」
「…!」
「危ない、ロー!!」



ゲギァアアアと喉の奥を引っ掻いて出しているような叫び声を上げながら、一羽…五羽の赤い鳥が、背の高い木々の間を縫うようにして上空から急降下して来ている。



黄土色の鋭利な嘴を構えながら真っ逆さまにだ。落ちて来ようとしている場所は、ローのいる場所

「ロー!!」
トリトは腕を伸ばしてローの身体を引き寄せた。
対象物がいなくなり軌道を外すのかと思いきや、赤い鳥は器用にも空中で急停止を掛けて地面との激突を免れたではないか、


「何だこの鳥は…!」


シャチとペンギンが懐から武器を構えつつ、トリトとローの傍に駆け寄って来る。ローは貧血を起こしている頭をどうにか叱咤しながら、"ROOM"で囲おうと右腕を動かした。


しかし、危機を感じたのか、赤い鳥達はまた一斉に聞くに耐えない声を上げて威嚇する。「う、うわあああ!」「うる、せええええ!!」「…っ!う、あぁ!」「っ!」余程身体が辛いんじゃないかローの奴、と心うちでローを叱ったトリトは、フラフラふらついているローの耳を自身の両手で塞いだ。「…!トリト!?」ダイレクトに耳を劈かれ、鼓膜が張り裂けそうだ。
しかし鳥たちの行動はそれだけに止まらなかった。
一羽がカパッと嘴を開いたかと思えば、そこからピュッと液体が吐き出される。


「うわっ!?な、なんだこれ!」
それをモロに被ったシャチは慌てて取り払おうとする。そばにいたペンギンが「この臭い…油か!?」と驚く。

口から油を出す鳥だと…!?

「松明を捨てて踏み消すんだ!!燃え移ってしまうかもしれない!」
「は、はい!!」


ペンギンは手で片耳を押さえながら、向かって来た赤い鳥の一羽の首を掻き切った。赤い血が飛び出すかと思えば、切った鳥の身体から出て来たのは透明な液体。「どうなってんだ…!?」「ペン、ギン!早く、走れ!」「オレ達だけでは駄目だ!他の皆と合流しよう!」「はい!」


トリトも持っていた松明を地面に突き刺して消火してから走り出す。目の前を走るローの背中を見ながら、背後に視線をやれば鳥たちはまた叫び声を上げ、羽を広げながら追いかけて来ていた


「あいつ等は、や、い、ってー!!」
「くそ…!植物が、足に絡んでくっぞ!!」

来る時は対した障害ではなかった蔦のせいでこんなに足を取られるなんて、

「は、 っ!?」
「ロー!?」


絡み付いて来た植物に足を取られたローが前に転倒する。後ろを走っていたトリトは倒れたローを踏みつけてしまわないよう、慌ててローより手前の地面に足をついた。



「ロー!立てるか!?」
「ま、て、足に、コイツ、絡んで…!」


見ればローの両足に、地面から生えていた蔓がグルグルと巻き付いている。
引き千切っても引き千切っても、次から次へと生えて来るこの植物は生長しているのだ。



「ペンギン君!ナイフを貸してくれ!!根っこを絶たないと…!」
「は、はい!!いま、」



だが赤い鳥たちも追い付いて来た。
枝と枝の隙間を掻い潜りながら猛スピードで近付いて来ている。早くしろ!とローが命じるより早く、鳥は口を開いた。また油を吐くのか!?と身構えるが、鳥の口から吐かれたのは油ではなく、ーー炎だった


「!?」
「ロー!!!」
「キャプテン!!!」


叫ぶトリトとシャチ、ペンギンの声を聞きながら、ローは咄嗟に腕を顔の前に翳した。
その腕は右側の、トリトのネクタイを巻いている方の腕だ


吐き出された炎は、ソレを焼いた



「……な、?」



チリチリと焼け焦げて行く

そして呼応するかのように、トリトの身体は足元から徐々に薄れて行った




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