恋情増幅 | ナノ
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ハートの潜水艦に大きく揺れが奔ったのは、2日後の昼を過ぎて幾分穏やかな海流に入った時のことだ



辺りを観測していた班からの緊急通信が船内に取り付けられたスピーカーから聞こえてきた
『――大型の海獣の群れです!!』
その言葉に船内は俄かに騒がしくなる。船を潜水艦に変えてから、初めての海獣の襲撃だった。海中を行く船のデメリットは、ここだ




『何頭だ!』無線からローの声が聞こえる。
『レーダーに反応があるのは8体です!』
『…チッ』
そのやり取りを聞きながらトリトは、顔を青褪めさせているバンダナの肩を叩いた。



「落ち着こう。直ぐに魚雷の準備だ」
「…あ…、う、うっす!!」


船底にある船蔵へと急行する。対海獣用に備え付けてある魚雷砲身がある。一応整備は数日前に済ましておいた、無事に使えるといいのだが

そこでは既にモーブが準備を完了させていたところで、レーダー班と通信で連絡を取り合いながら海獣の群れに照準を合わせている。
「モーブ!お前の腕にかかってっからな!」
「まぁかせとけって!」
強気に返すモーブだが、魚雷を扱うのは初めてのことだ。おっかなびっくり構えていても海獣は逃げてはくれない。もう一度船体が大きく振動した。体当たりしてきているのだろう。



「コレでも食っとけ海獣め!」


船の側面にある突出した砲身から魚雷が飛び出し、真っ直ぐにレーダー上の赤い斑点の1つに向けてぶつかって行った。けたたましい獣の叫び声のようなものが微かにだが聞こえてくる。チカチカと点滅していた斑点の1つが消失した。「まず一体!」とモーブとバンダナ達が歓声を上げる。
そしてモーブの隣の砲台からもう1つ魚雷が発射される。またしても赤い斑点が消えた。しかし海獣はあと6体。次を仕込まなければ、と動けば三度目の振動が船とクルーを襲った。ちょっとやそっとの攻撃ではへたれない構造に出来てはいる筈だが、海中の船内と言うある意味で閉塞的な空間の中で起こる執拗な攻撃は、人間を不安にさせるに充分な要素を備えている。



「――トリト!!」
「…ロー!」



ローが階上から降りて来た「丁度シージラフの巣にノコノコ入っちまっていたらしい」やっかいな海獣の一種だ。大体10頭から20頭で群れを作り行動する習性を持っているらしく、じきに仲間の危機を聞きつけて残り半数が来るかもしれないとのこと。次の魚雷をぶち当てていたモーブから「そんなに来られたらヤバイですって!」と悲鳴のような声が上がる。そう、魚雷の数が足りなくなる恐れがあった。一頭に確実に当てていけば乗り越えられるが、万が一に外せば数は足りない。これはガンズからも言われたことだ。必ず次の島で多めに調達しろと、しかし島に辿りつくより前にこうなってしまうとは



「どうする、ロー」
「……」
「外に出て戦うしかないっすかね…」
「バカ言え、自滅行為だぞ」
「……」



ローは深く思考している。そして壁にかけてあった通信機を手に取って見張り班に「次の島まではあとどのくらいの距離だ」と問いかける。直ぐに「半日ぐらいかと!」返答があった。それを聞いたローは、よし、と頷いた



「全員、じっとしてろ」

「…?ロー、何をするつもりで…」
「船を移動させる」
「え?」



「"ROOM"」薄い膜がローの手から放たれ船蔵、船室、船体すべてを包み込んで行く
そこでローが何をしようとしているのかに気付いたトリトは「大丈夫なのかロー!?」と心配する。しかしローから返事はなく、「"シャンブルズ"!」の声と共に船自体が大きく浮遊した











「…………?」


何が起こったのか。観測室の面々はお互いに顔を見合わせながらレーダーを確認した。
船を取り囲んでいた海獣たちの姿は映っていない。

その代わり、遠くに見えていた島影が 明瞭になった島の姿が目の前にあった





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