恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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船室への廊下を歩きながら、トリトはじっと己の掌を見つめていた。
今、自分の存在が薄れかけていたのは紛れもない事実。結果的に消失せずに済んだは良いが安心なんて出来やしない。次はいつまたこんな事が起きてしまうのか、もしそうなった場合自分はどうすればいいのか、黙って受け入れるしか方法はないのか。
悶々と考えてみるはいいが一向に良い考えは浮かんで来ない。こんな状況に置かされていることを ローに話してもいいものなのか。
みだりに伝えてしまって不安を抱かせてしまうのも可哀想だが、何の気構えもなしに消えられるのとでは、どちらがより悲しませてしまうのだろう



「………頭が痛いな」



「診てやろうか?」



つい口に出してしまった自分の独り言に返事をしたのは、寝惚け眼のローだった
「で、どの辺が痛いんだ?中か?外?」と質問を続けるローにトリトは内心で慌てている。しまった、全然気が付かなかった。うっかり先ほどまでの思考を漏らしたりしていないよな?と自問する


「ロー、オレは1人で何か喋ってたか?」
「…?頭が痛いって言うのしか聞いてない」
「……そう、か」


何でだよ。と、当然だが疑ってきたローにいや、なんでもないと言って言い包めるのは大変だった。あと頭は別に痛くないと告げれば、ソレにもムスっとした表情に変えて、「あんま心配かけさせるような事言うな」と叱られた。すまないな、ロー。もっとお前が心配してくれるような事を オレはまだ抱えたままなんだ





「…深夜にブザー音で起こされてから寝てないのか?」
「よく分かったな。ローは寝てたのか?」
「別に船長がわざわざ飛んで行く程の騒ぎじゃなかっただろ」
「うん。…早く慣れないといけないな」
「…トリト、目の下の隈が酷いことになってるぜ」
「え、本当か?」
「ああ。オソロイだ」
「………嬉しくないな」



食堂へ向かう廊下では続々とクルーの皆が起きて顔を出して来ていた。
見回りをしていた際に顔を合わせ「島影を見た」と教えてくれたクルー君もローに報告を済ませていたらしく、船の先をその島へと定めました、と言う新しい連絡が入ってきた



「影が遠くに見えるぐらいだから、上陸するのはまだだな」
「そうか。……お、ロー ちょっと止まってくれ」
「?」
「腕のネクタイが解けかけてるぞ」
「あ…」
「結んでやろう」



遠慮がちに差し出されたローの右手首にいつも巻かれている、元はトリトの私物であったネクタイが撓んでいた
元は濃紺色だったそのネクタイも、経年の劣化と共に色が褪せ、薄い青色になっている
ギュッと結び目を硬く締めればローから「…いてぇな」と薄い微笑みが返ってきた


「これでよし」
「…サンキュ」
「大切にしてくれてるみたいで結構だ」
「まぁな」
「最初にオレがローの船に乗り込んだ時に見たのよりも、少しボロくなったような気はするけど…」
「……まあ、物だから少しぐらい傷んでしまうのはしょうがない」
「そりゃあそうだな」



さっき結び目を締めたとき、ネクタイの布の部分が薄く擦り切れていたところが少し破けてしまいそうになっていた。そろそろ切れてしまうのか、とボンヤリ思う


それでも、ローに此処まで大切にされてきたのだから、ネクタイも本望だろう




「しっかり飯は食うんだぞ、ロー。寝起きだからって遠慮しちゃ駄目だからな」
「ならトリトも食っとけよ。今日は掃除に点検に見廻りに修行と大忙しそうだし、小腹が空いても食堂に寄る暇もないんじゃないか?」
「面白くなさそうな顔をしてるな」
「…本当に面白くないんだから仕方ねぇ」





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