恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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潜水艦は360度海中を見渡せる設計になっている。
中ほどに取り付けられた照明ランプは暗く視界の悪い海底を照らすこともあったが、
海獣を呼び寄せることにも繋がるため多くは使用されない。
船内でランプの火は貴重な資源だ。規定の時間を決め、節約を心がけるようにする


トリトは自身に一任された船大工としての仕事を全うする為に、今一度ガンズから教わったアレコレを思い出した。



潜水艦と言う慣れない船にハートのクルー達は戸惑うことがあるらしく、
今朝、惚けたクルーがハッチを誤って開こうとすると言う大惨事が起きるところだった。
今は海中を進むこの潜水艦のハッチを開こうものなら、怒涛のように押し入って来る海水の水圧で何もかもがペシャンコになるところだった。
幸い、開口ボタンが押された際の前確認用のブザーの音によりトリトが飛び起き、慌てて止めに入ったことによって惨事は免れた




「すんません!トリトさん、ほんっとうにスミマセンでした!!」
「いや大丈夫だ。ブザーの音で君も気付いたんだろう?」
「は、はい!やっちまった、って…!おれ、なんつーことを…!」
「幸い何事もなかった。これで学べただろう?あまり気に病むことはない」
「はい…!すみませんでした!」



ブザーの音は他のクルー達を起こすには充分すぎる音で、ワラワラと騒ぎを聞きつけたクルーの皆が集まってきていた。しかしその中にローの姿はなかった。グッスリ寝入っているのか、それとも起きてはいるが自分が出る程ではないか、と思っているのか

何にせよ、まだ就寝して数時間しか経っていない。見張り組み以外のクルー達には戻って寝るように伝え、トリトはそれから眠れずに船内の見回りをすることにした。一度起きるともう寝付けなくなるのは困ったモノだ




「あ、トリトさん!」
「どうかしたのか?」
「いえっ前方1時の方向に薄っすらと島影を見つけましたので、一応キャプテンに報告しようと」
「おぉ、そうか」



それは皆も喜ぶだろう はい!


報告に向かったクルーの背中を見送り、
トリトは見回りの最後に、船底にある緊急脱出用に設えられた小型艦の状態を見ていた。


そこである異変に気が付く



「……ん?」




暗がりでよく見えないが、自分の右手が薄くぼんやりとしているのが見えた
トリトはハッとし、冷や汗を掻く。


これは、ローが消えた時の、あの



今は勘弁してくれ…!とトリトは自分の体に更なる異変が起きるのをジッと待った。動けば侵食が早まるのでは、と思うと身動きが取れない
じっと、静かに待ったが、トリトの体が右手から徐々に消えて行くことはなく、
薄れ向こう側が見えていた右手は元の状態に戻っていた。透けもしていないし、ぼんやりもしていない



「………」



そこでトリトは気付かされる
今、自分はとても曖昧な状況と立場に置かされ続けているだけなのではないかと





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