「…何を言ってるんだ」
宿でトリトがローに持ちかけた相談と、ローとベポがこの場所で酒を酌み交わしながら話していた会話を思い出して、トリトは情けない声を出した。
「船大工のオッサンから持ち掛けられたのも、丁度良かったじゃねぇか。トリトも興味あったんだろ?」
「…それは、そうだが、でも」
「さっきトリトがアイツ等と戦ってるとこ見てた。初めてにしては見事だった。でも、痛くて怖ぇ思いもしたんじゃないのか?」
痛くて怖いなど。子どもに言い聞かせるようなローの言葉にトリトは少し苛立った。ローはつまり、つまり、何が言いたいんだ
「元の世界に戻れる算段はまだないし、船に乗っている以上はあんなことがいつも襲ってくる」
「それにトリトは慣れれるのか?今日はしなかったみたいだが、いつかは人を殺すことにだってなる」
「あの平和だった日本に住んでたトリトに、人を殺すことなんざ、」
そこまで言うと、ローの口が震えたのが月明かり越しに見てとれた
言い辛いことを言おうとしてる風に
「……、…トリトは大切だから、トリトに人を殺して欲しくない、……なんて事は言わねぇ。そんなのはトリトの自由だからだ。でも、」
「……」
「海賊をやることを 選ばないこともトリトの自由だ」
そんな悲しさを全面に押し出した表情をしておいて、何が"自由だ"なもんか。その顔は、トリトにこのままを選んで欲しいと望んでいる顔だ
言葉と表情が、アンバランスすぎる
「……ローは優しいよ」
「…!!」
「自惚れでなければ、オレの幸せを想って言ってくれてるんだろうと解釈する」
「………」
「しかしローは一個勘違いしてる」
「なに…?」
そんなバランスの取れてない顔を見せられて、
心配にならない奴は薄情者ぐらいだよ、ロー
「オレの幸せは、ローの傍でずっとローを見ていることだ」
淀みなく言えたこの言葉が、
宿の相談の、
桟橋のローからの告白の、
全ての言葉の、
答えだ
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