まだ陽が高く上がっていた時に上陸したこの島には、人々の活気溢れる声があちらこちらから聞こえて来たものだけど、陽が沈んだ夜も夜で島の酒場や通りからは楽しそうな声がしていた。よくよく見てみれば、そこかしこに海賊がいたが皆一様に酒を呑み歌って騒いでいるだけだ。船の修理の為に立ち寄っただけの者が多く、戦いを吹っかけて来そうな奴らはいなかった。それに安心したのはローで、傍らを歩くトリトに危害が及ばなければ、どうだっていいのだ
クルー達には「トリトと出かけてくる」と言っただけで囃し立てられたが、(殴ってきたけど)
別にそんなつもりじゃない。全部トリトの為だ。トリトには賢くなってもらわないといけない。この世界で通用する人間になってもらうために。自分の隣にトリト自らが居続けてくれるために。結局、全部自分の為なんだ。トリトが店先で購入した酒を受け取りながらローは考える。そんな物思いに耽るローに気付かないで、トリトは酒を煽りながらぼんやりと言った
「船はいつから着手されるんだ?」
「明日の朝かららしい」
「そうか、それってオレも手伝って良いのかな」
「……手伝う気、なのか?」
「ああ」
「何で」
「嬉しいからだな」
潜水艦にしたいと言ったのはトリト そんな自分の意見が通った事がトリトは嬉しいのだと言う
「ただ年甲斐も無くはしゃいでるだけだ。力仕事ぐらいなら、邪魔にならないよな?」
「…それは分からない。明日、自分で訊いてみたら良いだろ」
「そうするよ。でも、『邪魔者は帰れ!』って追い返されそうだな」
ははは、と笑うトリト。ローもそう思っていた。船大工と言うのは頑固で融通が利かない者が多いし、あの老人もそのクチだと思っている。張り切っているトリトには悪いけど、明日早々に追い返されて来るといい。ローは明日もトリトと共に島を歩きたかった
「 ん?ロー、顔が赤いぞ。酔ってるのか」
「…ああ。頭がグラグラする。トリト、おぶれ」
「元気そうじゃないか…? しょうがない、ほら」
「ん」
酔ってねーよ、ばぁか
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