恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「いやぁ、助けていただきどうもありがとうございました。あなた方は命の恩人です」



まさか自分が、こんな台詞を言う日が来るなんて思わなかった。命の恩人だってよ、命の
助けてくれた海賊団の船長は「無事で良かったなあ」なんて言ってくれる。なんだ、強面なツラをしているが優しいいい人じゃないか。海賊団って言うからもっと髑髏を前面に押し出した趣味の悪い服を着てサーベルみたいなんを腰に差してるってイメージがあったけど、こりゃ払拭されたな



「ところでお前、名前は?」
「トリトです」
「ならトリト、お前さんどうしてこんな海をスーツ姿なんかで漂ってやがったんだ?」
「それが…オレにも何故だかサッパリなんです…」
「はあ?」



悪酔いして家に帰った筈なのに何でか海の上にいたんですよね!はははは!と本当のことを言ってしまえば最後、折角助けてもらったのに何意味のわからねぇこと言ってやがる!殺せ!てな展開に持ってかれるかもしれないじゃないか。迂闊に口を滑らせれないぞ。


しかもオレの脳は既に覚醒し切っている。
この平和な日本に、こんな豪奢な飾りをした船に乗る海賊なんているワケがない。
広く世界を指してみても、海賊と呼ばれる人間はまだ根強く生きているらしいが、物語のようなコテコテの海賊ではないらしい。普通にボートとかに乗ってる海賊がいると聞く

つまりココは、オレの住んでいた場所ではない
そう確信付くと、そこに関しては言い切れる自信があった。
何故ならオレは、十数年前にそんな体験をした奴を1人面倒看ていたことがある








喋らなくなったトリトを訝しみ、船長とクルーたちはコソコソと声を潜める



「どうします船長…妙な人間拾っちまいましたぜ」
「ああ…どうやら能力者ってんでもなさそうだし、警戒する必要はないとは思うが…」
「しっかし、見事な体つきしてますねぇ…筋肉の付き方だけ見るならただの一般人だけど、背の高さはハンパないっすね」
「けったいな奴だ。まあでも、体力と力はありそうだからな。人身売買してる知り合いんトコに連れてって、売っぱらっちまおうぜ」
「イエッサ!」



そんな不吉な相談が交わされていたことなんて知らないトリトは、
助けてもらった恩人たちに不審に思われないよう、何とか人当たりのいい笑顔を浮かべる



「そう言えば、船長さんたちは何処かへ行く途中だったのですか?」
「ああ?…ああ、まあ、アテがあったワケじゃあないが、アンタを近くの島に送って行くぐらいのことはしてやるさ」
「!本当ですか」
「ああ」
「ありがとうございます!」



どこかの島に下ろされても、そこに自分の知り合いがいるワケではないが、このまま海の上でこの海賊団に付いていても帰る方法は分からないだろう。まあどうせ、ある日突然消えて元に戻れるはずだ。アイツがそうであったように


ん?しかし待てよ。ここはどんな世界なんだろうか。本当に、アイツが住んでいたと言う世界と同じ世界か?確かに海ばかりだし海賊もいるし空も青いが、それだけでは決定付けられない。



「……ローは、元気にやってんのかねぇ…」



あれから17年。38になり、すっかりオジサンになってしまったが、アイツ、ローはおそらく24になる頃だろう。目つきの悪く素直でないあの子どもが、立派な青年になっていれば嬉しいなと思う


しかし、トリトの周りに居た海賊団は、「ロー!?」と驚いたような声を発した




「お、お前トリト!今ローっつったか!?」
「え?ああ、はい。ロー」
「そ、そのローってえのは、トラファルガー・ローのことか!?」
「そうです!彼を知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、最近ここらの海で名を上げつつある新人海賊の名だ。懸賞額も高くて、えげつねぇ能力を持ってるって専らの噂だぜ…」



トリトの疑問は確信に変わった


ここに、この世界に、ローがいるんだ!





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