恋情増幅 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「は…はっは、お、思ってたより…海兵の…攻撃も…痛くは、な、ない、な…はは、ははは」



「トリト…!バカッどうして、戻って、きたんだ!」
「ん、んー…戻ってきたと、言うかだな、最初からずっと居たと、言うか、隠れてたと、言うか」
「……まさかトリト、お前…逃げてな、」


「オレに、ローを置いて逃げろなんて、無理だった」




それだけだ。ははっ、とトリトのあの笑顔を浮かべながらトリトが振り返った

「!!」少し傾けられたトリトの身体を見て、ローは驚愕を顔に貼り付ける。

トリトのその胸部は、着ていたシャツが破れ、トンファーによって肉が抉られていた


ローでさえ思わず目を見張る程の重傷だ。痛くない筈が、ない。増してやトリトは特別に鍛えてなんていない、ただの一般人だぞ、

ローの目と頭の奥から、火花が散ったようにパチパチと音がする



「トリト!!!」
「船長を庇うか…なかなか見上げた根性ではあるな」
「ははは……初めて言われたな……」
「しかしその傷ではトラファルガー共々逃げ仰せまい。終わりだ」
「…お、わらないさ」
「なに…?」
「このまま、逃げるんだからな」
「何を言って…」


無防備にも海兵から背を向けたトリトはなるべく傷に触れないように、身体が依然として麻痺したままのローに近づき、そのローの身体を抱き上げようとしてる


「ぐ…っ、ぐ、ぁああ…!!」
「な…や、やめろトリト!傷が開いてる!!」


足と背中に回ったトリトの腕を振り払うようにもがいたが、その手は断固として離れようとしない
間近に近づいたトリトの胸部の怪我は、先ほどよりも開き中の肉が剥き出しになっている
見ていられない


「おろせ、降ろせトリト!傷が…!」
「ローは、オレを助けに来てくれたんだ、そんなローを、置いてけないさ」
「…綺麗事言わないでいい!今はアンタの傷の方が、」



言いかけたローの言葉は、海兵の放った攻撃を背中で受け止めたトリトの苦痛に歪んだ声によって止められる


「……っ!!?」
「もう悲鳴も出ないか」



攻撃を受け止めても尚、トリトはどうにか前へと一歩を踏み出し、この場から逃げようとしている。

そんなトリトに抱えられ、トリトの肩越しに見えた、片腕を抑えた海兵のトンファーからはトリトの血が滴り落ちている。

それを見たローは、怒りによって目の前が真っ赤に染まったような気がした


「……この野郎!」
「む!?」


動かない左腕を無理やりに動かして、長刀を振り上げて海兵の残りの腕を切り落とした



「な…なに…!?まだ動かせたのか!?」
「はぁ…っ、は、安心、しろ。も、動かせね、ぇよ」


軽口で返したのは強がりだ。ヒクヒクと痙攣する口に感覚がない

トリトは、ローと海兵のやり取りなんてもう耳に入って来ないのか、ローを抱えたまま唯真っ直ぐに廊下を歩く

トリトが足を動かす度、大量の血が胸から流れ落ちて行くのをローは自分の身体で受け止めながら目をギュッと瞑った。情けないのだ。トリトを助けに来たと言うのに、このザマだ。ドフラミンゴの傘下に居た頃から、なにもかわれていない



「ま…待て!逃がさんぞ…!」


しつこい
海兵は両腕を失いながらも諦めていないらしい。はぁ、はぁと荒い息で歩を進めるトリトの顔は虚ろだ。血が足りないのだろう。どうにか握ったままの長刀は、もう振り上げられない


ったく、他の奴らは何をしてるんだ!とローがクルー達に悪態を吐いた瞬間、そんなこと言わせないと言わんばかりに、トリトと海兵の丁度ど真ん中に砲撃が飛び込んで来た



「うわあっ!!」
「…っ!!!」
「トリト、大丈夫、か!?」
「…あ、あぁ……いっ、たい、どこから……」


砲弾によって風穴の空いた壁に近寄って外を見渡す。約10mの下は、海水を引いている巨大な停泊場だった。海軍の船が何隻か停泊している。その内の幾つかに、見覚えのある旗印がはためいていた


ハートの海賊団のものだ。あれが、ローが呼んだと言っていたことだったのだ


「キャプテンーー!!!トリトさーーーん!!!来ましたァー!!」
「基地に乗り込んでた奴らも、全員乗船しましたー!!!」
「後はキャプテンとトリトさんだけだよー!!!」


シャチやペンギン、ベポの声が聞こえる。トリトは彼らに返事を返す代わりに、ローの身体を今一度強く抱きかかえた


「……ロー……ここから、どうするん、だっけか…?」
「…言った、ろ………飛び移る、んだ」
「は、ははは…そうだった……」


平常心で飛ぶには少し高すぎるが、グズグズもしていられなかった。眼下の彼らが上手く受け止めてくれることを願うしかない。こんな身体で、死んでしまわないかとトリトは自分に恐怖を抱いた。しかし、この腕の中のローを離す訳にはいかないのだ。抱き直し、空いた壁から身を乗り出す
「此方の準備は万端ですー!!」その言葉、信じるぞ。トリトが一歩を踏み出した。しかし、



「逃がさん…!!」
「な……!」
「お、!」


中佐の海兵が、横に転倒しながらもトリトの踏み出したソレに足払いを掛けた。態勢が崩れる。トリトはバランスを崩し、そのままローと2人して船の上ではなく、手前の海面に勢いよく叩きつけられてしまった。クルー達の叫び声が響いた




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